ラウぺ

サウルの息子のラウぺのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.8
カンヌでのグランプリ、アカデミー賞の外国映画部門受賞と輝かしい受賞歴の映画ですが、ホロコーストのゾンダーコマンド(特別使役囚とでも訳すべき言葉)が主人公ということで、見る前からハードルが高いばかりでなく、いくつかの要因が重なって非常にとっつきにくい作品となっています。

まず、スクリーンのサイズが通常のビスタサイズではなくスタンダードサイズ(4:3)となっているので、家庭用テレビも横長となっている現代人には左右の圧迫感が半端ないものがあります。
カメラは終始主人公のサウルの傍らに寄り添うように貼り付き(肩が触れるほどの距離)、ほぼ全てのシーンがそれで構成されています。
一人称の映画としては「バードマン」に印象に近いものがあると思いますが、更に息苦しいほどの徹底ぶりです。
また、ピントがあえてサウルの顔くらいの距離に固定されているので、遠方は殆どのシーンでピントが合わず、周囲で何が行われているのか、理解するのが難しくなっています。
スタンダードサイズの息苦しさ、近距離しかピントの合わない映像というのが、監督の意図したものであることは明白で、この圧迫感はそのままサウルのおかれた状況とリンクしているということができるでしょう。

更に、状況説明的なセリフなども一切ないため、絶滅収容所で何が行われていたのか予備知識のない人にはそれこそ何が起きているのかさっぱり分からない映画だと思います。
また、収容所のSS隊員のセリフにはサウルに話し掛ける人物を除くと字幕が出ないため、ドイツ語の号令などが分からないと更にどういう作業をさせているのか分からなくなる、という状態です。
収容所のユダヤ人は当然ドイツ語を理解しているはずなので、日本語字幕が入らないのは不適切と言わざるを得ません。

この映画を見る人でホロコーストについての予備知識のまったくない人は少ないかとは思いますが、強制収容所、とりわけアウシュビッツやソビボル、トレブリンカなどの絶滅収容所で何が行われていたのかよく知らないという人は「ショア」などのドキュメンタリーやネットなどでも、ある程度の知識を得てから見ることをお勧め致します。

そういう、予備知識があったとして、それが映画の肝心な部分を理解することができるのか?ということになると、これまた別のお話で、人間が理性や尊厳などといったものを保持できる限度を通り越した世界での主人公の心象を推し量ることができるのか?といった問題は映画を見たあと、帰り道で考えながら脳内で整理するよりほかないというところだと思います。
見終わってから内容について誰かと話さずにいられない映画というのはよくありますが、これはそういうのとはちょっと違って、黙って自らの内なる声と自問自答しなければならないという点で、ちょっと珍しい部類なのかもしれません。
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