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アクアマンのFilmojaのレビュー・感想・評価

アクアマン(2018年製作の映画)
4.0
海底王国アトランティスの存亡をかけ、水生種族の王族と人間の混血であるDCヒーロー、アクアマンの誕生と活躍を描いたバトルアクションかと思いきや、これはヒーロー映画の意匠をまとった、ジャンルの枠を飛び越えるジェットコースターのようなアトラクションムービーじゃないか!

ライバルであるマーベル映画に例えるなら「ブラックパンサー」+「マイティ・ソー」のテイストをベースに、さらに「スターウォーズ」「インディ・ジョーンズ」「エイリアン」「バーフバリ」などの要素を詰め込んだ何でもありの作風は、閉塞状況にあったDCユニバースに風穴をあける一撃になった。

前作「ジャスティス・リーグ」の酷評を踏まえ、DCファンでなくとも楽しめる最大公約数を狙った本作のエンタメ性は一級品だし、各ジャンルのおいしさを詰めるだけ詰め込んでお腹いっぱいにさせる満腹感はさすが。
視覚効果を駆使した水中映像も素晴らしく、臨場感あふれる360°縦横無尽の長回しアクションも見ごたえ抜群。

かといってメッセージ性もおざなりにすることはなく、海洋汚染の問題、人種や性別による差別、憎しみの連鎖、保守的で自己利益を最優先させる世界の風潮…そういったものを内包させながら、家族の絆や愛情、異人種間の融和といった理想を込めた完璧さ。

ホラー映画の新たな地平を切り開いた傑作スリラー「ソウ」を初めて観たときの衝撃から、「インシディアス」における恐怖表現の実験的な演出、そして「ワイルドスピード SKY MISSION」でメジャー進出を果たしての「アクアマン」。

キャラクターの知名度のなさを逆手に取り、自由な発想で様々なジャンルを横断しつつ、過去の回想を織りまぜながら破綻なくストーリーを展開させる手法は見事だし、次から次へと移り変わる情報量の多さは、ネット全盛の昨今に合わせた作風で飽きる隙がなく、誰もが楽しめる作りになってはいるのだけど、監督ならではの新しい視点や、単体映画としての独自性という点ではどうか。

悪く言えば、どこかで観た映画の二番煎じと捉えられても仕方ないし、マーベルという強力なライバルがいる以上、比較されるのは避けられない。
正攻法で対抗した今作での手腕は立派だけど、常にどこかで観たシーンの連続で既視感は拭えなかった。

最初は種族間の抗争に乗り気ではなかったアーサーが、混血のコンプレックスを乗り越え、王族としての自覚が芽生え、成長していく過程の描写がやや駆け足で、アクアマン誕生の物語でありながら「ジャスティスリーグ」後のエピソードという時系列的な分かりにくさも気になった。
映画そのものの満足度は非常に高いのに、肝心なアクアマンとしてのインパクトが薄く、どこか物足りなさが残るというジレンマ。
そしてこれはDC映画の構造的な問題なのか、“魅力的で共感できるヴィラン(悪役)の不在”は今作でも同様だった。

バットマンの傑作「ダークナイト」の成功を受けて、本格派のシリアスな作品を追求するも、あまり評価が芳しくなく路線変更を試みて迷走しつつあるDCユニバース。
「ワンダーウーマン」の人気にあやかって他のヒーローも活躍できるかどうか。
「アクアマン」はひとつの答えを見いだしたけど、次作以降もこれを続けるのは…自分はもうお腹いっぱいかな(苦笑)。

DCユニバースはキャラクター設定を含め、その個性を活かしきれていないと感じるので、この「アクアマン」をきっかけに、マーベルとは違う新しい魅力を打ち出していってほしいと願うのは、ぜいたくだろうか。
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