Filmoja

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのFilmojaのレビュー・感想・評価

4.0
自分が生きているこの世界の他に、もしも、もうひとつの別の人生があったら…?
そんなマルチバースのWHAT IF…?が現実化する夢と代償、そして今を生きる現実世界の厳しさ、豊かさをサム・ライミ流のエンタメとオマージュに仕立て上げたエモーショナル・ホラー。

※若干のネタバレあり

「アベンジャーズ/エンドゲーム」以来のIMAX 3Dと後日、通常吹替版にて再鑑賞。
パンフを読み込み、初見で消化しきれなかったマルチバースと物語設定をようやく理解。
前作同様にゴリゴリ動く異次元映像は健在でも、タイムストーンを失ったアガモットの眼や新たな魔術攻撃、そして多次元宇宙を股にかけるファンタジックなイメージは、今作ならではの圧倒的な造形美だ。

これまでのマーベル作品で最もホラーに寄せた演出は良くも悪くもライミ風味炸裂でも、想像以上に前作からの引用、言及が多用されていて意外(マルチバースの概念、ひび割れた風防の腕時計、ボムガリアスの火鉢の使い方、袂を分かつ兄弟子モルドとの因縁、暗黒次元の脅威など…)な展開。

時系列では「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」でのマルチバース騒動の直後ながら、本作を語る上でどうしても欠かせないのが、ディズニー+での配信ドラマ「ワンダヴィジョン」のワンダによる、ウエストビューでの現実改変事件だ。

劇場限定のパンフでも補足できるけれど、ドラマでの悲劇的な彼女の境遇を目の当たりにすると、ダークホールド(禁断の魔術書)を手にして最狂の魔女“スカーレット・ウィッチ”として覚醒した、本作での彼女の苦悩と悲哀が、願ってやまない儚い夢が、切なく胸を揺さぶる結末に感涙すること必至だ。

とはいえ、闇堕ちした彼女のチート感やホラー要素を含め、マルチバースの引用元(配信アニメ「WHAT IF…?」や「X-MEN」「インヒューマンズ」「ファンタスティック・フォー」)のキャラクターの、演出展開上の致し方なさといえど、スーパーヒーローの露悪的な扱いの軽さに辟易するのも、監督のクセの強さとマルチバースゆえの功罪だろうか。

ちなみにマルチバースの先駆けをアニメとして描いた「WHAT IF…?」や配信ドラマ「ロキ」は、本作の世界観にも一役買っているので参照しておくと、より楽しめると思う。

至高の魔術師“ソーサラー・スプリーム”としての役割が板についてきたウォン、マルチバースを旅する能力を持ち、星条旗をまとったGジャンがよく似合うアメリカ・チャベスのフレッシュな初々しさ、別次元のディフェンダー・ストレンジにシニスター・ストレンジ、恋人クリスティーンとの再会と想い出、そして前作でのマイケル・ジアッキーノとは一味違う、映像とシンクロしたダニー・エルフマンのトリッキーな音響演出など、ドラマチックな見どころが盛りだくさんで、専門用語やコミック原典に即した設定も多いので、コアファン以外は混乱するかも知れない。


配信ドラマを含め、今作をもって、いよいよフェーズ4の多様化、複雑化が加速していきそうで期待と不安が半々…これまでは作品同士のつながりはあれど、映画単体でも楽しめるのがスタンダードだったのが、段々とついていけなくなる観客が続出しそうな気配もするMCU。

ポストクレジットシーンにサプライズ登場した“あのヒト”との共闘や、自らの能力に“開眼”したストレンジの今後はいかに…?
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