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リコリス・ピザのFilmojaのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.5
盆休み初日の祝日、あのLA3姉妹バンドHAIMの末娘アラナ・ハイムが主演(姉2人もカメオ出演!)と知って、どうしても観たくて遠征先のミニシアターにて鑑賞。
サービスデーとも相まってか、昼の回は見事に満席、ギリギリの到着で残席2席だったので、ほぼ半立ち見だったけど滑り込みセーフ。
暑い夏にエアコンの効いた劇場で涼むのにピッタリな73年LAにタイムトリップ。

ひと夏の淡い恋物語を、飾らず自然体な雰囲気で演じるアラナとC・ホフマン。脇を固める豪華キャストが数々の名画をオマージュし、PTAことポール・トーマス・アンダーソン監督の映画愛が炸裂する青春ノスタルジー。

この出会いは運命―――

若かりし頃、誰しもがそう感じる恋心を抱いた想い出が鮮やかによみがえるような、ピュアな歳の差恋愛。
つかず離れず、微妙な距離感で展開する波乱含みの群像劇は、70年代当時の空気感をも再現し、追体験するかのよう。
シーンを盛り立てる、時代を彩るリアルタイムな楽曲群も素晴らしい演出効果。

ドキッとする会話、ぎごちない間、素直になれない駆け引き、邪魔するプライド、いじらしい嫉妬、共有する秘密、そして恋する喜び…。
いくつもの印象深いシーンに差し挟まれる、無意味とも思えるようなシークエンス。
…かと思えば、行き違いすれ違い、脈絡なく展開するピンボールのように行き当たりばったりな小さな冒険。

うまくいかないもどかしさ…それでも僕らは生きていく。輝かしい未来へ向かって。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を彷彿とさせる実在のモデルや史実を織り込みながら、どこへ転がるのか分からない奇妙な危うさを伴って進行する脚本の妙。
ゆえに、ユラユラゆれるウォーターベッドのように日常と非日常のメリハリが曖昧で今ひとつ物語に入りきれなかったのと、ピークとなるハイライトシーンがなかったのが心残り。

それが作家性と言われればそれまでだけど、群像劇や愛憎劇に定評がある監督だけに、一歩引いた目線だけでなく、もう少し心揺さぶるシネマティックな展開がほしいところ(そういう意味ではウディ・アレン監督「ミッドナイト・イン・パリ」は素晴らしかった!)。

ところで劇中でピザに関する言及は一切ないので、どんな意味が…と調べると、黒いレコード盤がリコリス(甘草)の黒いハーブを散りばめたピザに喩えられた当時のスラングで、その名を冠したレコードショップもあったそう。
選曲やメッセージを含め、この時代をリスペクトする監督ならではの粋なネーミング。

自宅のリビングにはターンテーブルがあるので、本作のサントラやHAIMのレコードを聴きながら、晩夏のチルタイムを過ごしたい💿
余談だけど、エンドロールだけでも“Summer Girl”を流してほしかったな…🌞🌴

https://youtu.be/ZjuA_o6Jzyo
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