Filmoja

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのFilmojaのレビュー・感想・評価

4.0
ワカンダよ、ティ・チャラ王よ
とこしえに―――

故チャドウィック・ボーズマンの逝去から2年、代役を立てないという決断を経て、ヒーロー映画としては異例の主役不在を乗り越え、Rクーグラー監督、キャスト、スタッフが哀しみを湛えながら完成させた、チャドウィックへの大いなる愛と感謝、喪失と鎮魂、そして融和と継承を描く渾身の追悼作。

前作のラストで、世界へ向けて開かれたはずのワカンダの資源と科学技術(ヴィヴラニウム)。
ティ・チャラ王亡き今、皮肉なことに、全世界から兵器転用のため狙われる。
そこに同じくヴィヴラニウムを資源とする隠された海底王国タロカンを率いるネイモアとの因縁も絡んできて…。

本作冒頭、まるで黙祷のようなイントロから重厚、濃厚な物語に圧倒されっぱなしの160分ではあるものの、尺の割にタロカン側との利害関係や、ネイモアとその周辺の人物たちの心理描写に物足りなさを感じてしまい、前作でのティ・チャラとエリック(キルモンガー)の深すぎる宿命を考えると、やはりチャドウィックの不在が全編に渡って支配していて、彼ならどう決断するのか…彼ならどう行動するだろうか…と想像してしまう。

だからこそ、今作でのシュリ(レティーシャ・ライト)の未熟で痛々しくも王女らしい気高さを、ギリギリの精神状態で演じる気丈なふるまいが胸を打つし、前作からのキャストたちも、これまでに見せなかった迷いや戸惑い、感情的な一面をのぞかせるシーンも多々溢れていて、ひたすらに切なくなる。

もちろんヒーロー映画らしいバトル・アクションやカーチェイスにバイクチェイス、マーベルらしい新キャラやガジェットも登場するものの、そのすべてがブラックパンサーへのセルフ・オマージュに思えてしまい、さらに不在が際立つという寂寥感。

この続編は製作陣にとっても、観客にとっても、喪失を受け入れ乗り越えるための、いや乗り越えられずとも、彼を悼み前へ進むための、ある種セラピーのような、必要な作品だったのだと思う。
前作に引き続き、脚本に落とし込まれた現実世界の分断や収奪、破壊や侵攻、正義の曖昧さと国民の犠牲といった重いテーマを再び投げかけ、それでも人間の善意と理性を信じ、この先の世代への、未来への融和と継承という希望を残すラストは、やはり感動的だった。

“ワカンダ・フォーエバー”

ややもすると虚しさを感じてしまいそうなタイトルを、あえて冠した哀しみと慈しみに満ちた物語を創り上げてくれた製作陣を、心から労いたい。
前作での断罪と和解のカタルシスはないけれど、現実の痛みを抱え、それでも前に進むための勇気や励ましを描いた本作には、間違いなくチャドウィックの博愛精神が息づいている。
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