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TITANE/チタンのFilmojaのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.0
悲痛、苦痛、激痛――スクリーンから目を背けたくなる、あらゆる種類の痛みと奇妙な性癖、そして破壊と再生…。
すべてを焼き尽くす業火と、決して傷つくことのないチタニウム。
自動車と金属を愛し、愛され、その果ての生みの苦しみから解放されたとき、彼女の脳裏に映るものは…?


想像を遥かに上回る、究極のエログロ・ヴァイオレンス・ホラー。
脳にチタンプレートを埋め込まれた、まるでアダマンチウムを流し込まれたウルヴァリンのような、ある種のミュータント映画を連想させる予測不能な怪作。
「ドクター・ストレンジMOM」のサム・ライミやスカーレット・ウィッチなど可愛く思えるほどの振り切れたマッドネス、マッドウーマンっぷり。

今回初鑑賞のジュリア・デュクルノー監督、とにかく痛烈な演出に容赦がない。
今作が長編デビューだというアガト・ルセルも、心身ともに疲弊するような演技でよく応えたものだと思う。

脚本、設定を理解できたのはテンポ良く進む導入部分のみで、あとはドキュメンタリーのようにただひたすらに感情移入できない人物の行動を追っていく。
ブレるカメラワーク、容易に推し量れない感情、不穏な音響、ヘッドライトの眩さや燃え上がる炎と闇の陰影、流れ落ちるオイルと飛び散る鮮血…すべてが観客を不安に陥れる要素で満たされる狂った映像の連続。

しかし、ある瞬間を境に、様相がガラリと変貌する。
息子を亡くした男と、狂気を宿した女。
喪失と執着を抱えたふたりの運命が交わり、ともに痛みを共有したとき、何とも形容しがたい希望のようなものが生まれる。

ともするとB級作品になりがちなエキセントリックな演出描写が、ラストの展開で一気に放出されるカタルシスによって、唯一無二の存在感を獲得している。

脈絡も動機も理由も根拠も無視した監督の嗜虐的作品ながら、精神的、身体的な“痛み”と“救済”をこれほど突き詰めた映画はそうないだろう。

観客の心理を深く突き刺し抉りだし、カンヌを魅了しパルムドールも獲得してしまった、突然変異の衝撃作。
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