Filmoja

ウエスト・サイド・ストーリーのFilmojaのレビュー・感想・評価

4.0
現代に甦る古典ミュージカルの傑作ーーー50年代NYのアッパー・ウエスト・サイド。
欧州系移民のジェッツと、プエルトリコ系移民のシャークス。ふたつの不良グループによる縄張り抗争のさなか、対立する異人種の男女が惹かれ合い、禁断の恋に落ちる「ロミジュリ」再解釈ミュージカル、そのリメイク。

S.スピルバーグ監督の娯楽性が存分に発揮された、テンポの良いシームレスな演出と、人物をダイナミックに捉えた大胆なカメラワークやダンスシーンの躍動感。カラフルで活き活きとした衣装美術や舞台背景。
オリジナルの'61年版を、より現代的な視点で違和感のないようにアレンジし、洗練させた脚本とドラマシーン。
そしてレナード・バーンスタインによる、エヴァーグリーンな珠玉の名曲の数々。

どれをとっても一級品で、古典特有のややノスタルジックな雰囲気は否めないものの、オリジナルから60年を経た今でも鑑賞に値する普遍的なミュージカルとして、新たな息吹を宿したような快作に仕上がっている。

立場を超えた燃え上がるような愛の素晴らしさ、切なさ、尊さを謳い、その一方で決して相容れない移民たちの、はたまた人種、出身、階級、貧富、性別、マイノリティ…といったあらゆるものの断絶を深くえぐり、暴力の醜さ、争いの無意味さ、社会から見離された者たちの、あるいは社会的に強い権力者たちの、無知ゆえの差別意識を、今の私たちにも否が応でも感じさせられる。

戦争の果ての無情な惨状と、遺された者たちの哀しみ、憎しみの連鎖。

「第三次世界大戦でも始めるつもり?」
奇しくも今、この時代でも決して色褪せない、極めて現実的なテーマ性を帯びて胸に迫る物語。
悲恋を通して人間の愚かさ、美しさを具現的に活写すると同時に、古典を現代の視点とマッシュアップさせたことによる説得力と存在感。

キャスト陣では、主演ふたりの熱演もさることながら、アニータ役を堂々たる歌とダンスで魅力たっぷりに演じたアリアナ・デボーズの理知的な振る舞いや、新たに未亡人の店主ヴァレンティーナ役で、60年ぶりにカムバックしたリタ・モレノの印象的な配役に心を揺さぶられた。


ミュージカルの近作というと昨年の「イン・ザ・ハイツ」が、同じくNYを舞台に移民たちの恋や苦悩を、ラテンの誇りと希望を眩しいほど高らかに描いたのと比べると、本作のウェットな余韻は観客によっては受け入れがたいかも知れないし、やはり時代錯誤だと思われても仕方のない部分はつきまとう。

しかし「ブリッジ・オブ・スパイ」や「ペンタゴン・ペーパーズ」で史実をサスペンスフルな娯楽大作に仕上げ、その普遍性を現代社会に照射させたように、本作でも古典に最大限に忠実であろうとし、現代的な再解釈でもってリメイクに果敢に挑戦したスピルバーグ監督の慧眼には、改めて敬服してしまう。


「私たちの場所がある
どこかに私たちの場所が
平和で穏やかで澄んだ場所が
私たちを待っている どこかで…」

「いつの日か どこかで
新しい生き方が見つかる
許し合う道が見つかる
どこかで…」ーーーー“Somewhere”
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