Filmoja

ジギー・スターダスト 2002年サウンドリミックス・デジタルレストア版のFilmojaのレビュー・感想・評価

4.5
2002年に公開されたサウンドリミックス・デジタルレストア版から20年、ボウイ生誕75年&「ジギー」誕生50年記念公開。

これまでYou Tubeなどで断片的に観てきたライヴが、きらびやかな映像と音響で甦るジギー最終公演。
屈折する星くずのようにスパークする、ボウイのグラマラスなパフォーマンスと、異星から轟く雷鳴のごとく心揺さぶる、スパイダースバンドの熱い演奏。ハマースミス・オデオンの熱気と共に、当時の観客と一体となる没入感。

先頃、再上映が決定した「ザ・ビートルズ:GET BACK ルーフトップ・コンサート」IMAX版も、伝説的なセッションを最高の上映環境で味わえて本当に素晴らしかったけれど、やはり劇場で観るライヴ・ドキュメンタリーは格別なものがあるな…と改めて実感。

もちろんリアルタイムではないけれど、ボウイにハマるきっかけとなった「Ziggy Stardust」を50年を経て今また、劇場で聴ける(観られる)幸せ。
言うまでもなく、古今東西のアーティストに様々な影響を与えた彼の、シアトリカルなツアーの真骨頂(ピーク)を克明に記録したD.A.ペネベイカー監督の、緻密で綿密とは言い難い観客視点に基づくざらついた映像が、むしろアドリブのような臨場感を伴って眼前に迫ってくる。

眉毛を剃り落とし、楽屋でメイクする素の表情が、衣装を身にまとうステージでは一転してロック・スターに変貌する、異様なまでの緊迫感。
モノラルからドルビーステレオに変わる瞬間の高揚感。
本当に空から地球に落ちてきたかのような、人間離れした妖艶な魅力を放つ彼のオーラに、恍惚とする観客とシンクロする陶酔感。

ミック・ロンソンを始めとするタイトなバンド演奏も圧巻の一言で、山本寛斎デザインのボウイのマントに描かれた「出火吐暴威」とも相まって、火を吹くような暴力的なサウンドの渦は、ドラッギーな快感を伴って感覚を刺激する。

今回の映画ポスターのコピーにも使われている「Changes」の、“変わるんだ/大人になっても変化しろ/時間は僕を変えていくが/僕は時間をさかのぼれない”という台詞が、この最終公演でジギーを抹殺し、後の彼にも通じる予言めいたメッセージ。
とうに若者を通り越し、大人になって変わることもできずに、苦い経験を経た今の自分にダイレクトに突き刺さり、思わず涙がこぼれてしまう。

そしてボウイの弾き語りで演奏される「My Death」。あえて観客の熱狂を落ち着かせ、静寂を求め、まるで自身へのレクイエムのように響かせる悲愴な姿に胸が締めつけられる。
“私の死が待っている/楽しいひと時を/終わりの前に与えてくれる/その扉の前に/あなたがいるから”…と、今となっては遺言のようにも聴こえて切なくなる。

地方のミニシアターならではの、ノスタルジックないかがわしい雰囲気を残す劇場に完璧にマッチしたレトロなライヴ映像は、自分にとっては若者に戻ったかのように錯覚する、何物にも代えがたい貴重な追体験となった。
時代に抗い、変化を恐れなかった彼の生き様に、改めて畏敬の念が深まるグラムロックのマスターピース。

欲を言えば、ライヴ本編のノーカット完全版を製作してほしかった心残りはあるけれど、ジギーの弔いの式を疑似体験できただけでも、充分に“夢見ることの罪”を与えてくれた時間だった。
その過ちに何度でも陥ってしまう私たちこそ、永遠に“ロックンロールの自殺者”で在り続けるのだろう。
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