舞台は昭和20年前後の広島。呉に嫁いだ絵描きが好きで夢見がちな娘・すずの日々の暮らしを、柔らかな線で描く。戦火が激化していくにつれて、何もかもが少しずつ奪われていく無力な状況で、それでも健気に前を向くすずの姿に、何ともやるせない気持ちがこみ上げる。
声高に反戦を叫ぶ映画ではないけれど、市井で生活を営む普通の人たちの、普通ではなくなっていく日常のささやかな出来事や、努めて普通に暮らし続けることの意味を、強く印象づけられる。絶望の中で時代に翻弄されながらも 、たくましく生き抜いた人びとが、確かにそこにいたんだと、実感できるような作品だった。
この世界の片隅に、懸命に生きるすべての人に寄り添う、哀しくも優しい人間讃歌。