八木

シャザム!の八木のレビュー・感想・評価

シャザム!(2019年製作の映画)
3.8
 面白いので、見たい人が見ればいいじゃない、という映画になっております。感想に困る映画でした。

 僕は原作をよく知らないので、原作がそもそも持つマインドみたいなものを全く理解していないし、もっといえばヒーロー物というジャンルに興味が薄く、当然DCやマーベルにも興味が薄い人間であるために、いまいち楽しみ方がわかっていないのですね。

 この映画は、ある養親のもとに養子に入った少年ビリーが偶然スーパーヒーローの力を受け継いで云々、という話です。もう少しでも話に踏み込んでしまうと、ネタバレが始まってしまう気がしてうまく書けませんな。

 まあでも「少年が自分の人生を始めるために必要だったこと」という、「ヒーローとなって悪いやつをぶん殴ってワッショイ」という機能をあくまでサイドメニューとして、きっちり主人公の人格的成長をじっくり見せながら、ヒーローであることがどう必要であったかについて説得力を得られている点で、かなり良心的な映画だと思いました。

 多分原作から端折られた展開とかはあると思うんですよ。例えば、ビリーの母親に関するドラマとかは、この映画を単体で見ている限りは理解しにくかったです。一応、それは映画の中で語られる内容ではあるのですが、それにしたって母親の、ビリーとの離別までのくだりは、自分勝手という言葉も当てはまらない程度には結構意味不明でした。あれが劇中まんまの理由だったとしたら、母親の生活環境が相当不安定だったり、母親のメンタル自体が生得的に相当不安定だったということにならないと不自然すぎるし、だとしたらそれに関する言い訳的なラインをちょっとでも足してほしかったと思います。

 あとは、養親のヴィーガン(風)の設定とか、あれどっかに生きた場面あったんですかね。そもそも、養親は『相当な人格者』という雰囲気は伝わってくるものの、ビリーに対してもそうだし、他の養子に対して具体的になんかそういう行動をとっている印象的な場面も少なく、最後の一番大事な結論に対してノイズになっているような気がしました。多分、原作呼んでたら補完できる部分なのだと思います。

 もう一個気になるところ、通常時ビリーの性格・立ち振る舞いに対して、変身時ビリーとの性格に、ぱっとみてギャップがありすぎるところ。シャザム役ザッカリー・リーヴァイの「14歳的な演技」は、軽薄・バカ・素直・可愛げなんかがきっちり入ってるのは楽しめるんですけど、リアル14歳であるところのビリー役アッシャー・エンジェルが弾けた14歳演技をしてるわけではなくて、全然同一人物に見えなかった。もちろん、自分の中で見ながら「思わぬ力を得てテンション上がってるからこんな感じなんだ」と言い聞かせながら見てたら気にならなくはなったんですけど、最後まで別々の存在になっていた気がしましたな。

 書いてて思い出した。そもそもシャザムに選ばれた部分だって、「取り急ぎだったので特に理由がない、というコメディ要素かな?」と思って構えていたけど、物語の中では少なくとも言及がなく、実際に適合者であったかどうかも、見終わった現在は不明です。誰か教えて。


 と、まあゴタゴタとなにか書かせてもらいましたが、方位磁石に関するエピソードからの最後への展開であるとか、「14歳の素直さ」を利用したコメディ的な展開であるとかはばっちり決まっていて基本的に楽しいばっかりの映画です。

 コンビニのくだりやら、ボス的な最後通告のくだりとか、バスにマット引くくだりとかは楽しかったし、妹ちゃんは可愛いし、基本的に誰も傷つかないつくりになっていると思いました。セクシーもないし血も出ません。個人的に、「そこはもっと血出たりとかあんじゃない?」と思うところもあったのですが、鼻血くらいでした。そのへんはファミリー向けに徹底した意識配分があると思います。

 特に僕は、上にも書いた「少年が囚われていたものの象徴を捨て、同時に自分以外の人間を俯瞰して見ることができた瞬間」についてと、「なりたい自分になれずに苦しんでいたのは自分だけではなかったことがわかった瞬間」が感動的にしっかり描かれていたことで、この映画は良作だったと思うのでした。
八木

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