マサキシンペイ

ハッピーアワーのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
3.6
5時間17分というバカみたいな上映時間、演技経験なしの主演女優4人を、ロカルノ国際映画祭の最優秀主演女優賞に導いたという、注目せざるを得ない超大作。
DVDになってからでは絶対に見ようとも思わない長さなので、意気込んで劇場で3900円の入場券を買った(ほとんど普通の映画2、3本分の料金は時間的に考えて仕方ない)が、その判断は間違っていなかった作品。

構成としては、序盤に抽象的に作品のテーマ性が示されて、全体を通してそれを具体的に描いていく。

40歳を目前にしたあかり、桜子、芙美、純の仲良し四人組は、芙美が勤務するカルチャーセンターで開かれるワークショップに参加する。身体を触れ合わせながら新感覚のコミュニケーションを体験するという内容。

複数人が背中どうしでくっついて座り、手を使わずにお互い背中で支え合いながら立ち上がる。遠慮しすぎても、もたれかかりすぎても、バランスが崩れる。みんなの「重心」が安定したときだけ立ち上がれ、やっと向き合ってお互い顔を見合わせることができる。自然とハニカミ混じりの笑顔が溢れる。
講師の鵜飼曰く、コミュニケーションの全般がこの体験と同じく、支えあってはバランスを保ち、立ち上がったと思えばまたバランスを崩す、の繰り返しなのだそうだ。

このワークショップの内容がこの映画の全てだ。人間関係の「重心」がゆらゆらと振幅しながら、5時間もの物語が展開する。登場人物全ての心理描写が濃密で、この長時間は必然だった。

しかし濃密であるが故に、20代男性である僕には入り込むことは許されない世界だった。
繊細に描かれているのにも関わらず、職場で部下を指導する上司の戸惑いも、思春期の子供を持つ親の不安も、仕事も家庭も安定しているからこそ感じる夫婦間の寂しさも、ましてや40歳を目前にした「女の友情」と「女としての焦り」という女心も、僕は否応なしに汲み取れなかった。

作中に、若手女性小説家が、描写の精緻さを評価されつつも、「あなた自身がまだ本気で人を好きになったことがないでしょう?」と指摘されるシーンがある。要するに有能ではあるが人生経験が未熟で作品が「青い」のだ。
個人的にこの映画で最も引っ掛かりがあるシーンだ。恐らくこの映画を見るには、僕はまだ「青い」ということなのだろう。それが妙に悔しかった。
マサキシンペイ

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