140字プロレス鶴見辰吾ジラ

パッセンジャーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

パッセンジャー(2016年製作の映画)
4.0
”毒にも薬にもならない感動作”

個人の意見ではありますが、映画には2種類あると思っています。
1つは、自身の思想書になるような深く刻まれる作品。
2つ目は、毒にも薬にもならないが”映画という大嘘”に抱かれる作品。

今作は個人的には後者になります。冒頭のオートパイロットで航行する巨大宇宙船アヴァロンの造形美。1000メートルの長い船体に重力リングのゆったりとモデルウォークのような美しい回転。船内は冬眠システムで静まり返るも隕石群に突入してしまいバリアと隕石の衝突にする衝撃に対しても沈黙を守り続けるシークエンスから心がときめいてしまいます。

今作はただ1人冬眠システムで90年早く目覚めてしまった主人公の孤独と葛藤を描きます。SF映画で言えば、「オデッセイ」の主人公、「インターステラー」のマン博士、「ゼロ・グラビティ」のヒロインのように。漂流という観点では、トム・ハンクス×ロバート・ゼメキスの「キャスト・アウェイ」のような壮大×孤独感の対比が想像を超える恐怖感と虚無感を連想させられます。個人的な感覚だと、ダンカン・ジョーンズ監督の「月に囚われた男」を思い出しました。さらに目覚めた後に船内でスイートルームのベッドに飛び込んだり、寿司やイタリアン、スナック菓子まみれになり、ゲームを堪能する刹那的なワクワク感を挿入することで、”もしも世界に1人きりになったら?”というイフのシチュエーションとして身近に感じられるポジションとして主人公が機能していたのは良かったです。

一連の船内でのひとり遊びを終えた後の想像を絶する孤独に対しての主人公の葛藤と決断が物語を動かします。ここでヒロインのオーロラという「眠れる森の美女」から拝借したロマンスギミックをジェニファー・ローレンスの美貌を媒介にエモーショナルに描いているのにもニンマリです。ここで対しての主人公のクリス・プラットの田舎出身のエンジニアで粗暴なイメージないしカウボーイ的なポジションが、手の届かないような高嶺の花と恋に落ちることが可能になったという、ここもまた”イフのロマンス”となっているのが心地よいです。2人で宇宙遊泳するシーンは、もう”憧れ”ですね(笑)

迎えるべき”落としどころ”に向けて夢の時間が弾けてからは、ご都合主義のような次から次へと発生する事象に対しての当てはめを開始。キャスティングに入っていて気になるローレンス・フィッシュバーンの謎も、それこそよく言えば”人は1人では生きられない”悪く言えば”ご都合主義”のようなパズルをローテンポ、ミドルテンポ、ハイテンポに紡いでいく流れも悪くないと感じました。クライマックスは「君の名は。」を真っ先に思い出すような、ハイエモーションとご都合主義のつるべ打ちのようなパワープレイにふっと笑ってしまうようなシーンもありましたが、胸の苦しいような結末と胸をなでおろすような結末の鬩ぎ合いはちょうど良かったのかなと思います。

最後は個人的に好きな物語の”紡ぎ”を感じさせる落としどころにフィックスさせたので心地よく”毒にも薬にもならない”感動を味わえて、ほっと胸をなでおろす映画体験になりました。

「君の名は。」を引き合いに出してまとめると、”毒にも薬にも”さらには”人生の思想書”レベルで深く刻まれない感動であったとしても、そこに内在されるロマンスは”嘘の中の優しい嘘”であって、ある日偶然にせよ、自発的にせよ、自分自身のコンプレックスや寂しさのような負の感情を癒してくれる存在と出会いたいというロマンスをいつまでも心の中央付近にも片隅にも感じていたいと思った次第です。