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バーニング・オーシャンの小のレビュー・感想・評価

バーニング・オーシャン(2016年製作の映画)
3.6
自称“映画好き”のオヤジが集まって、一緒に映画を観た後お酒を飲みながらうだうだ感想戦をする「オヤジ's 映画鑑賞会」の候補作に上がるも選に漏れた作品。「コレ、爆発とか炎が凄かったねーとかで終わるやつでしょ。感想が割れず盛り上がらなそうだから…」というのがその理由だけど、当たらずとも遠からずだったかな。

前半は眠たかったけれど、石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」に着いてからは、サラリーマンの苦悩が伝わってきて、自分好みなイイ線をいっていた。でもやっぱり、災害パニックエンターテインメントで終わっちゃったかな。

『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』みたいに、組織の闇とか病をあぶり出してくれることを期待していたから、あーあって感じ。

事故を起こしたのが国際石油資本のBPだからか、原因がどの企業にも当てはまりそうな利益第一主義みたいな理由でおしまい。

それも、いかにも憎々しげなBP社員2人が暴走しちゃったんじゃね?的な感じで、組織の責任を問うような視点は希薄。力を持つ者に忖度せざるを得ない実話系の限界を感じてしまう。

中盤はよかった。 BPの社員の故障の放置は当たり前、大幅な工期の遅れを取り戻すためなら、テストの担当者を“独断で”返し、テストなんか必要ないなどの無茶苦茶は、当然、組織上層部の威圧があってのことだろうと妄想し、同情してしまう。

ああ、すまじきものは宮仕え。組織のためなら、例えまともな人間でも、無理をするしかなくなってしまうのだ。しないということは相当の覚悟が必要なのだ。経営危機に瀕している某大手電機メーカーだって似たようなものでしょ、きっと。

こうしたことは、BP以外の側の人にも言える。BP社員の強硬な採掘作業開始要求に、その場にいて危険なことを知りながらも、身を挺して作業しないと言えない中間管理職は、その場にいない現場監督に電話をして指示を迫る。

現場監督は、締め切りを切られ自らの目で確かめることもできず、テスト結果の数値と中間管理職からのまた聞き状況だけを判断材料に、困っているであろう中間管理職、そして、とにかく早く仕事を終えて帰りたい作業員達のことを忖度しつつ、さらに自分は下請けで、この油田はBPのものだという自分自身への言い訳を胸に秘め、作業開始を了承する。

事故が起こってからも、サラリーマンリスク回避の言動は続く。スタッフが独断で外部に救助を求めようとしたり、設備を操作しようとすると、「勝手なことはするな」「何もするな」と。

これはサラリーマンあるある物語ですか。この点はさすが実話。こんな状況でアホか、と思うでしょうが、アホになってしまうのです。

何故、アホになってしまうのか。ズバリ、アホになるほうが楽だから。組織を第一に自分の行動を正当化すれば、何も考えずに仕事ができてしまう。そういう行動は問題が発生していない状況であれば、組織で評価されるから、楽して、出世して、収入が増えるという、いいことずくめ。

逆にアホにならないということは、その反対で、苦労の割に報われない。それどころか、マイナスもあり得る。だから自分の信念とか意志が強い人ほど葛藤する。そして人々は「倍返しだ」みたいな人が活躍すると喝采するんですな。

一方、アホのリスクは誰が負うのかといえば小さくはその組織全体で、大きくは社会全体。リーマン・ショックしかり、この映画のもととなった2010年メキシコ湾原油流出事故しかり、アウシュビッツだって…。凡庸(普通)な人を悪に変える、それが組織の本質なんだろうと。

てなことをもっと深堀してくれれば自分的傑作だったのだけれど、ここでの組織=BPの批判につながるような直接的な表現はほぼ見られない。ググってみると相当いろいろあって、映画の材料には事欠かない気がするけれど…。

BPのお二方についてもその後の経過がテロップで示されただけで、勧善懲悪な溜飲を下げるシーンもなく、かといって、助かって良かったの感動も微妙な感じで、バーニングしたオーシャンとは反対に不完全燃焼なこの気持ち、どうすればいいの?みたいな。

なので、この映画は爆発までの緊張感と爆発シーン、業火の中からの脱出シーンを楽しんだ者勝ちなエンターテインメント。自分はもちろん負け組です、ハイ。
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