"あなたが私にくれたもの"
「全部いらないわー」
友人がそう言うので、嘘でしょ?となった。私なら全部嬉しい。
「え、夢にまで見た淡い夢だよ?シャガールみたいな青い夜だよ?最高なんだけど」
「いらんだろ」
「マジか」
貰って嬉しいプレゼントととは、こうも人によって違うのか。
誰かに贈り物をする時は気をつけようと思った次第。
JITTERIN'JINN『プレゼント』
私にとっては最高にロマンチックなプレゼントのお返しに"さよならしてあげる"その曲の話になったのは深夜のカラオケ。
"あなたが私にくれたもの"
その"あなた"をその場にいる人の名前にかえて歌い、呼ばれた人は酒を飲み、マイクを回しながら"さよならしてあげるわ"のフレーズに当たった人が酒を飲む。
要はコールである。
決して品の良い行為ではない。
カラオケもコールも苦手だけど、飲むのは好きという私の性質を存分に理解している友人達との数年前のカラオケでの事だった。
いらないプレゼントほど、いらないものはないらしい。
サイモンとロビンは、夫サイモンの地元に新居を構えた。
そこで偶然出会ったサイモンの同級生ゴード。その日を境にゴードから数々のプレゼントが届くようになるのだが。
包み紙を開けてみないと中身がわからないプレゼント同様、人も外見だけでは中身はわからない。
「案内するわ」
夫の留守中に訪ねてきたゴードにロビンは家の中を案内する。
でた!と思ってしまった。
案内するほど広い家に住んだ事のない者の僻みな気もするが、この家の細部までしっかり案内する風習が私にはよく分からない。
しかもロビンとゴードはほぼ初対面である。やめときなって。
親しみの距離感にズレが生じると、得てして悲劇は起こりがち。
ゴードの距離感やプレゼントに、サイモンがお返しにプレゼントしたいのは実は"さよならしてあげる"というやつで。
ビリビリ包み紙を破くのではなく、跡が残らないように綺麗にテープを剥がすような開け方で、登場人物それぞれの中身が見えてくる。
そしてゴードのプレゼントの真意とは。
久しぶりに会った会社の同期から次々プレゼントが届くという似た設定の物語が、確か唯川恵の短編小説の中にあった。
タイトルが思い出せない。
「飲みたいんっスか?」
ふと声がして顔を上げると、その声の主が私の視線の先を指差した。
消毒用のアルコール。
思い出せないと思いながらぼんやりしていたのを、彼は違う意味に取ったらしい。
「飲むかい!」
わざわざ持ってきてくれたスプレーは受け取らない。
本当、いらないプレゼントほどいらないものはない。
社会人になって消毒用のアルコールでも飲むのかと聞かれたのはこれが初めてではない。4回目。
その現実に底冷えしなくはないが、今作の結末の方が恐ろしい事は確か。