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アイリッシュマンのYYamadaのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
3.7
【NETFLIXオリジナル作品選】
◆監督:
 マーティン・スコセッシ
◆ジャンル:
 人間ドラマ、クライムサスペンス
◆NETFLIX配信月: 2019年11月
◆劇場公開: 有り
 米国: 2019年11月
〈見処〉
①アメリカ闇社会の半世紀を描く
・『アイリッシュマン』は2019年に一部劇場で公開された実録マフィア映画。タイトル由来は(『グッド・フェローズ』『ディパーディッド』など)、汚れ仕事を厭わないブルーカラーとして差別的に描かれることが多いアイルランド系アメリカ人、通称「The Irishman」から。本作ではロバート・デ・ニーロ扮するフランク・シーランが該当する。
・本作は、現在(2002年頃)の老人ホームで過ごす老人フランク・シーラン老人が、1950年代から80年代のアメリカの裏社会について、1975年の出来事をハイライトとして回想するという形で物語は進む。
・1950年代、トラック運転手をしていたシーランは積荷の横流しを行い、会社から訴えられてしまうが、共犯者の名を明かさなかったことから裏社会のドン、ラッセル・バファリーノ(ジョー・ペシ)の信頼を得て、組織のヒットマンとして活動を始める。
・ある日、シーランはラッセルから、アメリカの最大の労働組合の実権と全米の物流を握り、大統領に次ぐ権力者と評された全米トラック協会のジミー・ホッファ委員長(アル・パチーノ)の紹介を受ける。ホッファはライバル組合の対処など、手際よく問題を「解決」するシーランを気に入り、シーランをチーフ・ボディガードとして重用するようになる。
・1975年、マフィアへの融資金を巡って対立するようになったホッファに対して、ラッセルはホッファの粛清をシーランに指示。シーランは苦悩するが…
・JFK暗殺や、ホッファ消息不明事件など、半世紀に渡る史実に、フィクション要素を絡めた叙事詩「I Heard You Paint Houses」を原作とした3時間半に渡る長編の本作は、「数回に分けて」「何度でも」視聴出来るネット配信サービスの利点を生かして、じっくりと鑑賞したい作品である。
・因みに「I Heard You Paint Houses」=
「お前が家のペンキ塗りをやっているのを聞いたぞ!」は人を殺した時の血しぶきで家の壁が染まることを差すスラングだそうだ。

②スコセッシ、ギャング映画の集大成
・スコセッシが構想に長年を費やした本作は、とにかく製作費が高額。2017年には膨れ上がっていく製作費に対して、パラマウント映画が全米配給権を手放したと報じられ、本作の製作は暗礁に乗り上げたかに見えたが、NETFLIXが1億2500万ドルの出資を表明、全世界配給権を購入したことにより、頓挫しかかったプロジェクトの作品化に繋がった。
・本作は2019年11月にアメリカ国内の少数の劇場で公開されたが、大手劇場チェーンによるネット配信までに60日以上空けることを要求に対し、NETFLIXは4週間後に公開する予定を崩さなかったため、劇場チェーンの緊張関係が続き、大手チェーンのいくつかは劇場公開を拒否した。NETFLIXにとっては、ネット配信時の「鮮度」とアカデミー賞レースにエントリー条件を満たすことを天秤にかけたとした判断であっただろう。
・演出面においてもスコセッシの苦難は続く。前述の実在の人物に対しレジェンド俳優をキャスティングした大作映画の製作は、彼の力を以てしても困難を極めたようだ。
・ロバート・デ・ニーロは、アカデミー助演男優賞を受賞した『ゴッドファーザー PARTⅡ』(1974)以降、マフィア映画では欠かせない存在となり、スコセッシ監督との共作は、本作にて9度目を数える。
・ジミー・ホッファを演じるアル・パチーノは『ゴッド・ファーザー』三部作や『スカーフェイス』『カリートの道』など犯罪映画の第一人者。デニーロとは『ゴッドファーザー PART II』以降、計8作品の共演があるが、スコセッシ作品に出演するのは本作が初となる。
・マフィアのドン、ラッセル・バッファリーノを演じるジョー・ペシは『グッド・フェローズ』(1990)で演じたマフィアの構成員役がアカデミー助演男優賞に輝き、マフィア映画に欠かせない存在に。2010年以来映画出演がなく、事実上引退状態だったペシをスコセッシは数年間を要し50回にも及ぶ説得によって本作への出演が決まったそうだ。
・3人に加え、数々の犯罪映画を撮ってきたマーティン・スコセッシが監督を務める本作は、往年のファンも納得出来るマフィア映画の集大成である。
・なお、第92回アカデミー賞では、本作は、作品賞と監督賞、アル・パチーノとジョー・ペシによるW助演男優賞ノミネートなど9部門10件がノミネートされたが、無冠に終わった。

③「不気味の谷」を越えるCG技術
・本作の制作費が高額となる所以の一つが、最先端のCG特殊視覚によるものである。ILMによる主要キャスト3人に対する
特殊効果によって、半世紀に及ぶ叙事詩を同じ俳優が演じきることが可能になった。
・出来上がりを見ると『トロン・レガシー』(2010)のジェフ・ブリッジスや、『
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』( 2016)のレイア姫と比べ、 「不気味の谷」を越え、違和感は感じない。
・また、演出においても、ベテラン3人が
若年期の演技をする歳には、軽やかなステップを踏むようにスコセッシが演出した逸話がNETFLIXの特別影像で聞くことが出来る。

◆ロバート・デ・ニーロ
・撮影時75歳、30代後半~80歳を演じる。
・デニーロのキャリアでは『レイジング・ブル』(1980)が本作の最若年期に、『ジャッキー・ブラウン』(1997)が本作のハイライト(1975年)に相応する年齢。

◆アル・パチーノ
・撮影時78歳、40代後半~62歳を演じる。
・パチーノのキャリアでは『シー・オブ・ラブ』(1989)が本作の最若年期に、『
インソムニア』(2002)が本作のハイライト(1975年)に相応する年齢。

◆ジョー・ペシ
・撮影時75歳、50代中盤~90歳を演じる。
・ペシのキャリアでは『リーサル・ウェポン4』(1998)が本作の最若年期に、本作撮影時のペシの実年齢が本作のハイライト(1975年)に相応する年齢。

上記の比較でみると、俳優の実年齢時のほうが若く見えるのは、ハリウッドのトップ俳優である所以だろう。

④結び…本作の見処は?
○:アメリカの半世紀の表と裏が凝縮されたストーリー
○:スコセッシ、デニーロ、パチーノ、ペシのレジェンドの集結
○:最先端のCG特殊視覚
×:3時間29分の上映時間は、とにかく長くて、集中力の維持がしんどい。
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