こうん

ノクターナル・アニマルズのこうんのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.4
なんという美的感度の高さに支配された映画だろうか。
21世紀の当世においてこれほどの高度な美意識は、既成の概念や道徳にまでも揺さぶりをかける…という映画になっている。
愛する者の死体までも美的オブジェとして魅せる、この胆力たるや。

しかしその物質的な美の奥に描こうとしているのは、醜さであったと思う。
人の心の不確かさや残酷さや身勝手さ。

そして残念ながらその醜さは、卑近で親しみがあり愛してさえもいる…という、温もった哀しみをまとっている。



…とかなんとか思ったりもしたけど、この耽美でエレガントな映画世界に、しっぽり耽溺しちゃいました。
最高ね。映画に埋まった。
よくよく考えると多層的な語りにみえつつも、エイミー・かわいい・アダムス演じるスーザンの主観のみで構成された、巧みなテリングになっていて、その滑らかさに舌鼓です。
小説パートのフィクション感と現実パートの冷たい煌びやかさと過去パートの暖かい感触と、そのどれもが魅力的で、しかも分断されることなく一本の映画の感情としてシームレスになっている。

そして、この映画に込められた底意というものを絶妙に提示しきらない、曖昧さが観る者の実人生に降りかかってくる感じ。
映画が閉じた作りになっていないんだ。
それを余韻と呼んでもいいけど、優れた映画に特有の、ほんの僅かに開かれた隙間が、甘美な余韻として心に残る。
そんな映画でしたね。

それにしても、あの道路上のイザコザ、似たようなこと経験したことあってマジ怖かった。ああいう冴えた輩の、こちらの怯えに乗じた話術というか論法というか…シチュエーションも込みで地獄だよ。
故に面白かった!

役者さんの演技も申し分なくて、マイケル・シャノンの風格はポスト・トミーリージョーンズですな。カメレオン俳優ジレンホールも良かったし(噂される彼のバットマンが観たい)、エイミー・かわいい・アダムスは相変わらず美しくて繊細だし、アーロン・テイラー・ジョンソンのヒールっぷりは最高でした。

長編映画二作目でこのクオリティで脚本も兼任のトム・フォードさんは、すんごい。僕は異業種からの転身映画監督に対する偏見と先入観のある権威主義的な映画ファンですが、ちくしょう、どうやら才能というのはあるらしい!
こうん

こうん