140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ノクターナル・アニマルズの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.0
”刺激物”

初手に映されるゲテモノアート。
劇中劇が心を締め付ける恐怖感。
回想が焦がすあの頃。
現実が陥る空虚感。

「現実の私」で描かれる時間軸。
「劇中劇」で描かれる狂気と才能と期待。
「回想のあの頃」で描く、帰らぬ日々。

3つの時間軸ないし世界を進行させながら、炙り出す”復讐劇”は、あらゆる刺激をこねくり合わせて歩みを止めないでいる。

冒頭の芸術なのか凡人にはぶっ飛びすぎて理解が及ばず、ただただゲテモノという見世物に釘づけにされ、上空から撮影したあまりに入り組んだ高速道路の無機質的カオスが脳にチェダーチーズのように張り付いていき、これは「覚悟を決めて臨め」の合図のように今作の世界観へと誘っていく。そして今作の大半占める劇中劇の、ディープアメリカの夜の闇を射抜く一本道で起きる、「絶対に自身に降りかかってほしくない悲劇」の厭らしいまでの濃厚な緊張感と恐怖心と葛藤劇は、「2度目は見たくない。」と思わせるほどに戦慄で鮮烈。そして「現在」「回想」「劇中劇」が互いに確実な意味をもって交わることなく、心の底に染み込んでいく感覚は、これが2本目のトム・フォードが上品かつ下劣に描き切っている。

役者陣は、物質的豊かさに肌に張り付けただけのエイミー・アダムスが不眠症というストレス値を顔でしっかりとカウンティングし、ジェイク・ギレンホールの印象的な顔と巧なエモーションの強弱で舞台を右往左往している。そして、まさかのゴールデングローブの助演男優賞を獲得した、アーロン・テイラー=ジョンソンの軽口を叩く恐怖の奥行感の実体化に肝が冷えるばかり。最後に劇中劇をパワフルに彩ったのは、顔力が映えるマイケル・シャノン。素晴らしい素材と意外な素材の舞台上の演技によるアンサンブルと、物質的に豊かであれ、精神的に追い詰められていても、たどり着く精神的荒野の空虚感が堪らなく印象的だった。

”愛”や”復讐劇”と評価される今作の、底し得ぬ”怖さ”や”空虚感”は、常にあの時自分自身が、もし自分自身ならと共感しながらにもどかしく映像の前で地団太を踏み、そして行く当てのないエネルギーを放出して、疲弊してしまう映画体験としてエンドロールを迎えるのである。