シマすけ

帰ってきたヒトラーのシマすけのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.2
侵食する現実


ヒトラー本人がもし現代のドイツに現れて人気者になってしまったら?という内容のブラックコメディ。


本作の特徴は、ヒトラーに扮した役者が街ゆく人々に実際にインタビューしている点でしょう。
人種差別の禁止が定着して久しい今日。
そうはいってもやはり不満を抱えてしまう事があるのもまた事実。
そんな中ヒトラーの誘導尋問により、普段は言えない移民への生々しい不満をつい漏らしてしまう人々。
劇中のインタビューはヤラセではなく全て本物であり、中にはヒトラーやナチス時代に感銘を受ける女性も。一方で過去を学ぶべきだという意見やヒトラーを危険視する声も取り上げられています。ネオナチは頭の悪い集まり。

本作が恐ろしいのは彼が最悪の独裁者になる過程を、フィクションではなく現実の世界を用いて表現している所。フィクションとドキュメンタリーが半々で構成された世界のはずが、ジワジワと現実が虚構を蝕んでゆく様子がとてつもなく不気味。
本性を表したヒトラーが街を凱旋する中、通りの人々がふざけ気味にナチス式敬礼を実際に行い、過去に起こった実際の移民排斥デモが次々映し出され、最後に全て整ったと言わんばかりにヒトラーがほくそ笑む最悪のエンディング・・・


彼の人間味やおバカな様子を映し出すコメディだった前半。
悪魔が権力を掌握する様子を、巧みにインタビュー映像を劇中に組み込み最悪の事態が現実に発生したと錯覚させる後半。
虚構が現実を侵食する映画は多くとも、現実が虚構を侵食する映画は珍しく、それ故後味の悪さが尾を引く作品でした。


過去を学び、歴史を繰り返してはならない。
シマすけ

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