トルーパーcom

キングスマン:ゴールデン・サークルのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

3.5
マシュー・ボーンの大ヒットスパイ映画『キングスマン』第2作。前作同様、とにかくアクションとカット割りが最高。大スクリーンで楽しめばチケット代の元は十二分にとれる楽しい映画。

カメオとしてはけっこう長時間出演し、主要キャストの1人といっても差支えないゲスト出演ミュージシャンがはちゃめちゃで最高。

劇場では2回観賞したけどIMAXで観られなかったのを少し後悔している。

【1】公開時の印象
前作がなかなかの傑作なので、初見時は気になる部分が多くて今ひとつ乗りきれなかった。
前作に思い入れがある人にとっては「それはダメでしょ」って感じる展開ばかりで、スターウォーズ最後のジェダイ同様に賛否がわかれるところだと思う。公開時はtwitterなどでも不満の声はかなり多かった記憶。

ただ、今回公開から1年たって円盤を購入したので再観賞したところ、当時よりも見え方が変わっていてけっこう楽しめた。

カットや見せ方は秀逸だし、序盤で思い切った展開に舵を切ったことで、新キャラクターや組織、主人公エグジーの新しい魅力に尺を割くことができている。

本作の中だけで見ても、個々のキャラクターの動機や心理描写、伏線の回収や構成などきちんとうまく組まれていて、客観的に観られるようになる2~3回目以降は「悪くないな」って評価が変わった作品。


<以下、ネタバレあり感想>



【2】カット/カメラワークについて
このシリーズの最大の魅力はカット割とカメラアングル。
・画面の中央を固定したような激しいアクション
・劇的な場面をスローモーションにする編集
・オープニングのカーチェイスで長距離ドリフトするシーン見事
・裏切者の処刑シーンでエルトンの眼鏡越しのカット
・瓶のボトルなどを場面転換に使う切替えスマート
・ステイツマンの建物に入っていくCGすごい。
・ミンチのシーンで、ちらっと目線を送るようにカメラが機械に移るの秀逸。
・終盤のシーンでエルトンの視点と、ロボット犬のカメラ視点を多用したカット割り最高。

そして本作で最高に予算を投入したのではと思える超CGが、追跡装置をクソビッチの体内に投入するシーン。
オレは大画面でいったい何を見せられてるんだろうって爆笑してしまった。しかもなんかあそこめちゃくちゃカッコイイBGMが流れるし。

ココは1ミリも共感できないクソ女だからこそ爆笑できた。多少なりとも可愛い雰囲気のある子だったらちょっと変な感じになったと思う。


【3】演出について
初見時はあまり意識しなかった部分も多いけど、細かい部分に1つ1つ伏線/フリが用意されていて芸がこまかいなと感心。

・友人の誕生パーティー
→JBの世話を頼む
→悲劇
→嫁が2代目JB連れてくる
→嫁とのすれ違いの中で犬に気付き
→ハリー復活
の流れがエモーショナルな要素をたくさん詰め込みつつ物語をうまく進めていてスマート。

・青虫のくだり/愛犬の話/地雷の犠牲はエグジーの父の手榴弾の件とからめる/ラストの鏡のくだり、と前作とのつながりをうまく使っている。

・潜入前に武器を選ぶのになぜかマーリンがナイフ選ぶのただのギャグかと思ったら意味あって◎。
・マーリン「泣き言を言ってる時間はないぞ」→飲んだらすぐ泣く
・マーリンはカントリーミュージック好きっていう設定/序盤からカントリーロードちょいちょい仕込んでるので2回目は最初から涙腺くる。

・義手にハッキングされて悲劇
 →ラストはハッキングで逆転。
・いつもウイスキーの反対でステイツマンになれなかったジンジャー
 → ウイスキーが退場したので彼女が昇格するの綺麗な回収。

・嫁は王族なのに薬やるってどうなの?って初見時は思ったけど、よくよく見返してみるとエグジーの任務にショック受けてやってるんだなってわかって納得した。エグジーの嫁、ルックス苦手だけどすごくいいキャラだと思う。

【4】キャラクターについて
■エグジー
冒頭からいきなり圧倒的なアクションシーンが展開され、能力は十分に成長している姿を見せてくれる。1人のスパイの誕生を描いた前作の続編として文句なしのオープニング。

しかし、直後全国のキングスマン施設が攻撃されたのはエグジーが義手を放置して私用を優先したから。誕生日直後の親友と愛犬を失ったのも彼が原因。妻が薬に走った原因も彼。エグジーは精神面ではまだまだ未熟で、ハリーの助けが必要であることが感じられる。

M:I3でもテーマになった、スパイの仕事とプライベートの両立の困難さが提示された本作だが、ラストではハッピーエンドを迎え、すっかり1人前のキングスマンになった彼の姿が描写された。エグジーの物語第2作としては良い脚本。

エグジーって言葉遣いは汚いけど「本質的な部分は紳士」っていうキャラクターは一貫していて好き。嫁への接し方もいいし、バーのおばさんとのやりとりが特に好き。

■ハリー
アルファジェルの件は、まあトンデモ技術として嫌いじゃない。それに、このシリーズから彼を退場させるのは得策ではないので復帰には文句なし。
「彼はすい炎で死んだ!」と叫ぶシーンは号泣できる。

ただ、彼の登場は予告編などではもっと伏せておくべきだったのではと思った。たとえば「回想シーンなのかな?」と思える見せ方をしておくなり。でないと感動が半減。

作品だけを1→2と続けて観るぶんには文句なしの脚本だったと思う。まだまだ成長過程のエグジーのメンターはやっぱりハリーしかいない。

■マーリン
今作のMVP。崩壊した本部に戻ってきたエグジーとのやりとりがすごく印象的だった。まだまだ未熟なエグジーを導くマーリン。
割と悪役を演じることが多い俳優さんだけどこのシリーズでは常に頼もしくもコミカルで魅力的。
ハルベリー演じるジンジャーとのからみもよかった。「現場に出たい」っていう2人の会話はM:Iシリーズのベンジーを思い出す。

■ウイスキー
本作のカッコイイ担当。バーとロッジ前での2回のアクションシーンは文句なしにカッコよくて何度見ても思わず声あげてしまうイケオジ。雪の中での二丁拳銃のシーンのカッコよさは映画史上に残るレベル。

初見時はラストが唐突に感じたけれど、理解できてから2度目を観ると、ハリーとウイスキーの細かい行動に気付く点が多くてとても楽しい。
1作で退場させるには惜しいキャラだが1作で退場させて正解。
円盤の特典映像で彼のスタントマンの映像があるので必見。


■ポピー
なかなかキャラが立っていていい悪役だったと思う。
前作のヴァレンタインがあまりにも強烈だったので続編の悪役はハードルが高かったと思うが、サイコっぷりは負けず劣らずの異常性で素晴らしい🍔
彼女の動機も、共感はまったくできないけれど一貫性があってなかなか説得力はあった。1も2も悪役の行動指針の設定はよくできているなという印象。
彼女は吹替の人の声もよかった。

それと彼女の本拠地の50年代美術も最高。赤を基調としたダイナー風のデザインは、個人的に自分の部屋にも取り入れてるくらい好きなのですごくよかった。
ポピーはデザイン面での本作のMVPキャラだったと思う。

■チャーリー
前作のキャラの上手な再利用。小物感はあるけれど、キングスマンを知っている男なのでポピーの駒としては最適だったと思う。

■テキーラ
登場シーンは西部劇の定番股下カット。ファーストコンタクトは抜群にカッコいいけど中盤以降の扱いが残念すぎる。
チャニングテイタムは魅力的な役者なので次作での活躍に期待。

■チャンプ
とにかく仕草がいちいちかっこいい。前作のアーサーがアレだったので、彼の存在感はたまらなくよかった。

■エルトン・ジョン
「水曜日!水曜日!」と「FRIEND」に吹く。
ネタ担当だったのに突如大活躍しすぎる超展開は「おかしいだろ!」と突っ込むレベルを突き抜けていて一周回って絶賛に値する。

【5】減点ポイント
■キャラの扱い
シリーズとして楽しみにして観ると、前作のキャラの扱いが雑でショックを受けると思う。公開時は特にロキシーの扱いがショックだった。
でもよくよく見てみると、ベッドの下に何かあるように見えなくもないので、ハリー同様に次作で超展開で復活してくれることに期待。

1年たって冷静になって見てみると、ロキシーを退場させ、ハリーが完全体でないという設定にしたことでマーリンとウイスキーに尺が割けたし、何よりエグジーが1人で頑張らなければいけない場面が増えているのでドラマとしては正解だったのかなという気がしなくもない。

シリーズものにおいて、人気キャラを全員活躍させるのは無理なので、理由をつけて退場させたり弱体化させることは大事。そういう意味ではこの点は減点ポイントとは言い切れないのかもしれないが、やはり初見時は抵抗があった。

■編集
上映時間141分は少し長いと思う。正直いって少し疲れてしまう。1つ1つの要素を見るとどれも必要性はわかるんだけれど、少し詰め込みすぎかなという印象。
メインの悪役が実質3人いるのが多かったのかも。
尺を考えると、チャーリーのクソビッチ彼女/ゾイドみたいな犬/テキーラ/ジンジャー/ポピーを裏切る人2人(処刑)、あたりの2~3つくらいばっさりカットする方がよいのかも。

【スコア】
★3.5で。
映像的に楽しいので部屋で何度も流しておきたい映画。
楽しいシーンも多いけど、前作と比べると完成度は若干低いかなと思うのでこのくらいで。
トルーパーcom

トルーパーcom