こうん

トマホーク ガンマンvs食人族のこうんのレビュー・感想・評価

4.5
すこぶる好みだった「デンジャラス・プリズン」に引き続いて近所のGEOで借りてきた「トマホーク ガンマンVS食人族」!
S・クレイグ・ザラー監督の2015年のウエスタンロードムービーホラー。

ちょっとねーこれはねーあのねー…
映画館で観ていたならば絶対年間ベスト10に入っていたでしょうね。

スクリーンで観れないのが悔しくて観終わった後にやけ酒飲んだくらいに面白かった。

いや、その面白さというのが世間一般に敷衍できるような面白さではなくて、言ってみれば“映画秘宝案件”です。
地味で渋くてゴアで、しかして映画として野蛮かつ崇高。
超ド好みの映画でしたよ。

物語は超シンプルで、西部開拓時代のある街において野蛮な原住民に嫁がさらわれた男と保安官たちが奪還の旅に出る、というものです。
いいですねー、ハイコンセプト。
そして西部劇における追跡モノの伝統にのっとったオーソドックスな三幕構成で、発端となる事件と登場人物が描かれる一幕目、追跡の旅路とキャラクターの関係性の変化を描く二幕目、そして事件の解決と感情の発露が描かれる最終幕…というなんととも心落ち着く仕立てになっております。
しかし、ハワード・ホークスとかジョン・スタージェスの西部劇のぬくもりを感じながら楽しんでいると、いきなり「食人族」になるので要注意です。
冒頭からちらほら敵となる部族の皆さんの野蛮さは描かれるのですけど、最後に来て「アポカリプト」とか「グリーン・インフェルノ」になるので危ないテンションが急上昇になります。

でもそのゴア描写も一箇所を除いて露悪的じゃなく、なんというか即物的に撮られていて、これ見よがしなヴァイオレンスではありません。
(その“一箇所のゴア描写”で一緒に観ていた妻が脱兎のごとく部屋を出ていきましたが)
しかしその即物的な見せ方が、却って“想像を超える野蛮さが普通に存在して茂みの向こうからヌッと現れる世界観”を醸し出していて、何度もぎょっとします。
ふと白塗りの半裸の人がいたと思ったら間髪おかず弓矢や手斧が飛んでくる、その間合いのなさが怖くて、この映画をより魅力的に補強していますね。
「ガンマンVS食人族」という副題にウソ偽りはなく、そういうジャンル映画ではあるのですけれど、すごく洗練された映画ですね。高級な映画です。

もちろんホークス由来の正調西部劇ドラマとしても抜かりはなく、情けない理由で足を大けがして自由に動けない優男のパトリック・ウィルソンと人情があって仕事もできる保安官カート・ラッセルを主軸に、ロートルやもめのおしゃべりで人情家の保安官補佐リチャード・ジェンキンスとナンパでキザだけど義侠心のある元軍人ガンマンのマシュー・フォックスが随行して、きっちり4人組。
それぞれにきちんと過去や葛藤があり、それが道中の様々な出来事への反応で浮かび上がり、化学反応を起こしていく…という語りがいつだって好ましいし、この寄せ集めのパーティーが最終的にはお互いを思い自らの命を盾に守るという行為に、涙が頬を走りますですよ。
その語らずに語り見せる演出やシナリオの塩梅がいいんだよね。二幕目のやや退屈に思われるかもしれない道行きこそが、僕には魅力的でした。
淡々としているんだけど、ちょいちょい野蛮さが垣間見えるんでいい緊張感がある。
それがドラマになるし、サスペンスとしての枷にもなっている。
上手いなぁーと感嘆しました。

監督のザラーさん、おそらくタランティーノばりのオタクでありつつも、その語り口が落ち着いていて上品。かと思ったらギョッとするような描写もあって(熱いスキットルとか骨突っ込みとか)、なかなかのセンスです。そして今気づいたけど、これが処女作なんだって!
すごい才能だと思うし、めっちゃ好みの作風。「デンジャラス・プリズン」も本作も主人公は道徳的で真面目だから、たぶん監督も根っこのところはそうなんだろうな。

とにもかくにも!
さらに熱いのはこのザラー監督の新作がメルギブ主演でヴィンス・ヴォーン共演のクライム・スリラーで警察モノだってこと。
想像しただけで卒倒しそうですが、早く予告編来ないかなー。
その新作が公開した暁には、どこかで「トマホーク ガンマンVS 食人族」「デンジャラス・プリズン」の二本立てを名画座でやってほしい!スクリーンで観たいぞ。
(作品の性格とか考えると、新文芸坐さまでやってくれませんでしょうかね)

まぁ「我こそは!」という自信のある方には絶対絶対おすすめの一本でありますのでおススメです!
こうん

こうん