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アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場のkuuのレビュー・感想・評価

3.9
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』
原題 Eye in the Sky.
映倫区分 G.
製作年 2015年。上映時間 102分。
戦地から遠く離れた会議室でドローンが映し出す映像を見ながら戦争に加担する人々の葛藤を描き、現代の戦争の闇を浮き彫りにした軍事サスペンス。
ヘレン・ミレンが正義感に燃える指揮官キャサリン役を、2016年1月に他界したアラン・リックマンがベンソン中将役をそれぞれ演じる。
ギャビン・フッド監督がメガホンをとり、俳優コリン・ファースが製作に参加。

イギリス軍の諜報機関で働くキャサリン・パウエル大佐は国防相のベンソン中将と協力し、ナイロビ上空を飛ぶドローンを駆使してロンドンから英米合同軍事作戦を指揮している。
そんな中、大規模な自爆テロ計画の存在を突き止めた彼らは、アメリカ国内の米軍基地にいるドローン・パイロットのスティーブに攻撃命令を下すが、殺傷圏内に幼い少女がいることが判明。キャサリンは、少女を犠牲にしてでもテロリスト殺害を優先させようとするが。。。

今作品を観終わって思ったのはフィリッパ・フットが提唱した倫理的ジレンマ『トロッコ問題』。
それは、

制御が効かないトロッコ。
進む先には、5人の作業員がいます。
進行方向を変えるレバーの前に立つあなた。
レバーを引けば線路が切り替わり5人を救えますが、今度は切り替えた先にいる1人の作業員が犠牲になってしまう。
あなたは、1人と5人、どちらの命を選びますか?
ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?
ちゅうマイケル・サンデルの『これからの正義の話をしよう』でも扱ってた問題で、これには正解はない。
どんな行動を選んだかで、各人の道徳観が見えてくるってもんで。
たとえば、1人より5人の命を選ぶ人は功利主義、一方理由はどうあれ人の命を奪うことを良しとしない人は義務論に従っているといえるって感じかな。
そんなジレンマに陥る者たちのお話でした。
ギャビン・フッド監督によると、米軍のドローン操縦者の30%がこないなジレンマから心的外傷後ストレス障害(P.T.S.D.)となり治療を受けているとのこと。

アフガニスタンとイラクでの地上戦で、5千人近い米軍兵士と数十万人の罪のない民間人が死亡し、さらに数十万人が負傷したり傷ついたりしてる。
ISISやアル・シャバブといったポストアルカイダのテロリスト集団に対する新しい種類の戦争は、無人機を使って空から行なわれている。 
しかし、罪のない一般市民に対するリスクは、武器を持った実際の軍隊が地上にいる場合と何ら変わりはない。
と云うのも、いわゆる『テロとの戦い』において、行われるすべての行動は最終的に反動を生み、双方による殺傷の終わりのないサイクルになりかねないから。
今作品では、このようなことが問題提起されてる。
へレン・ミレンとアラン・リックマンは、ナイロビで自爆攻撃の準備をするアル・シャバブのテロリスト集団を追う英国軍人のトップであり、そこにはたまたま英国出身の新兵2人と米国出身の、最近過激化したばかりのもう1人が含まれていた。
テロリストたちは、ケニアの首都の人通りの多い住宅地にある家に身を寄せ、ケニア人の工作員(2013年の『キャプテン・フィリップス』で海賊のボスを演じたバーカッド・アブディ)が地上で注意深く監視している。 
すべてが確認され、少なくとも80人が死亡する可能性のある攻撃を行う前に、家とその住人の両方を破壊する準備ができているが、ドローンによる攻撃を実行する権限を与えられるために通らなければならない法的抜け道は計り知れない。そして、ケニア人の若い女の子が隠れ家の近くの壁の通り側でパンを売っているのを目撃され、彼女が潜在的な犠牲者、軍が包括的なオーウェル(ダブルスピーク)的婉曲表現で "巻き添え被害 "と呼ぶものになることで、道徳的影響が介入してくる。そして、ドローンとそのミサイルを操縦する2人の米軍将校(フィービー・フォックス、アーロン・ポール)は、ラスベガス近郊の空軍基地の席でこのすべてを眺めている。
多くの苦悩の末に空爆が行われ、テロリストと、単に悪い時に悪い場所に捕まっただけの罪のない一般市民が死亡しても、行われたことの余波はナイロビの爆心地をはるかに超えるものである。
空爆後、リックマンが政府首脳の一人に『兵士に戦争の犠牲を知らないとは云わせない』と述べたが、それは空爆で死んだ人々だけでなく、それが軍人や兵士に与える心理的なダメージ、そして世界全体への影響を意味している。
それは誤りかな。
イラク戦争とアフガニスタン戦争が、自らの悪徳と傲慢に目がくらんだアメリカの政治指導者たちによって、どれほどひどい失敗に終わったかを考えると、空爆を成功させるためのコストが、空爆を承認する責任を負う軍の人々や空爆を行う兵士やパイロットに重くのしかからないと考えるのは、誤りといえるな。
ギャビン・フッド監督とガイ・ヒバート脚本は、この問題の核心に触れている。
今作品は、ブッシュやチェイニーらによって公的に承認されたようなめっちゃ格好いいアクション映画ではなく、軍事的、法的、そして何よりも、ドローン攻撃政策の道徳的な意味合いを非常に簡潔に表現していました。
ミレンとリックマンは、実際のスクリーンタイムを共有していないにもかかわらず、それぞれの役を見事に演じていた。
今作品は、非常に緊迫した体験であり、戦争の代償を痛感させられましま。
完璧な映画技術、主題にふさわしい演出。
巻き添え被害という概念について学ぶことができ、苦しみ対苦しみ、リスクアセスメントの判断のために何が正当化されるのか見る価値ありましたし面白い作品でした。
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