140字プロレス鶴見辰吾ジラ

KUBO/クボ 二本の弦の秘密の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(2016年製作の映画)
4.0
”物語る”

泣いた。
涙が溢れた。
これは紛れもなく”物語”である。

スタジオライカが送る渾身のストップモーションアニメ。「パラノーマン」や「ボックストロール」など過去作品は未見で、「KUBO 二本の弦の秘密」で初めて、ライカの映画に触れることができた。ストップモーションアニメといえば幼き日に見た「ニャッキ」から、今年公開ののウェス・アンダーソン監督の傑作「犬ヶ島」が記憶の中に根付いている。しかし今作のクリエイションへの熱量は度を越している。ストップモーションアニメということを大いに忘れるようなアクションシーンの連続に、動物の毛が風で靡くシーンや津波の恐ろしさは圧巻。そしてある種の特撮式な手法であるがゆえの、画面の奥行や上層部・下層部に行くにつれて示される濃い闇の表現は、もし幼き日に今作を鑑賞していたなら間違いなくトラウマになっていたに違いない。母親の妹たちにクボが見るかってしまう夜のシークエンスと奥行の闇、そしてその増幅は逃げることなど不可能と脳裏に絶望を届けるのに十分すぎるほどの演出の説得力だった。しかしながらストップモーションアニメという枠を忘れ、アニメ→アニマ→モノに魂を宿らせるという手法自体の喜びを存分に味わえる、冒頭のクボの村での弾き語りショーで心はときめきっぱなしだった。

物語は自身の出生の秘密から、強大な敵に3つの武具を集めて仲間とともに挑むというまさに王道中の王道。日本へのラブレターとも称されるように、日本昔話シリーズのソレや、子供を主人公と奥には、母の心の病描写や津波に飲まれて海底に頭部を強打するシーンなど、単純なレイティングを突き抜けたバイオレンスや悲惨な裏側も見せている。逆に上記で上げた王道という道筋で、各キャラクターの最終的な役割や着地点も見えてしまうわけであり、役者の演技力、特にシャーリーズ・セロンのその口調とその裏の母性は見事であり、予定調和にのっとっているようだった。アクションシーンは中盤の船の上が最も熱量高く、クライマックスに向かっていくと以外にも王道的な一撃解決法だったので肩透かし。キャラの配置と着地後の折り合いも雑に感じたのは事実であるが、クライマックスを文字通り彩り、そして何よりも今作を”物語”として昇華したクライマックスバトル後の一連の流れに涙が溢れてしまった。ウィークエンドシャッフル時代のライムスター宇多丸氏が「ムービーウォッチメン」の中で語っていた、「ライフ・オブ・パイ」「エンジェル・ウォーズ」(※個人的オールタイムベスト枠)と同一的な話だというのは見事に私の中で腑に落ちた。物語は始まりがあり、そして終わるという常ではあるが、それは1つの物語は語られることで2つ目の物語の火種となり、永遠に紡がれる糸のように伸びていくと思うと感情が高ぶってしまう。「スター・ウォーズ」のような壮大なサーガでもよいし、ウォーボーイズの「I live, I die, I live again.」のイズムでもある。物語が器に意味を与え、その器が滅びても魂の体温は受け継がれていくのだと思うと「リメンバー・ミー」の2度目の死を迎えぬように思い出を大事にして、そしてまた歌いだすの如く歩みを進める活力となる。そして途方もない作業工程においてアニメという手法に閉じ込めた語り手の思いを受け取ったならば、また我々も歩みを進めていくのだと思う。