LudovicoMed

ウィッチのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

ウィッチ(2015年製作の映画)
3.9
「Give it to me! Give 罪!」に支配されゆくカタストロフィ

魔女を題材とした映画といえば『サスペリア』から『ブレアウィッチプロジェクト』得体の知れない怪談としてホラーに重宝されるサブジャンルですが、コチラは宗教と狂気的な信仰心から逆説的に悪魔へ魔が差す心理を捉えたホラーだ。
『ゼアウィルビーブラッド』を思わす牧歌的なリズムで心理を攻める作風を宣言するかのように映画は静かに始まる。
17世紀のニューイングランドで、主役となる一家が村を追放される。彼らが属していたのはピューリタンと呼ばれるイギリスの新教徒のコミニティで、信仰と自由を求めアメリカへ渡った教派という時代背景がある。一家の父は原罪に対する意識高い系狂気的なまでの思想により、遥々辿り着いたアメリカ大陸にて意見の違いで追放を食らう。聖書の教えを絶対とする父はさしずめ福音派を象徴しているのかもしれない。

そんな訳で孤軍奮闘、森に近い農地で神を崇めるように暮らす一家に不自然な現象が数十分レベルで襲いかかる。

本作の作風は時代設定に対応して変幻自在にフィルムの質感を変えるポールトーマスアンダーソンの様なアプローチに近く感じる。銀残し風味の不気味な映像に、『ゼアウィルビーブラッド』みたいな不協和音がグーっと大きくなる音演出で不吉な布石は完璧だ。後は観客をどう恐怖に陥れるか。

観ていくと信仰に徒労しそうな、でも孤軍奮闘で信じれるのは神しかいない状況下から約6人の一家は、信用できない語り口で誇大妄想を告白しまくるのだ。
これが伏線っちゃ伏線だし、ミスリードっちゃミスリードな宙ぶらりんが得体の知れない恐怖を生み出す。
シャマラン映画みたく不自然さが連発されるのです。
例えば、小学生くらいの弟ケイレブが何度かアニャテイラージョイの胸元に視線を向けることがある。
「何見てるの?」「ねえケイレブ」と優しく囁くアニャはケイレブに軽く戯れて、様子がおかしい弟を「よしよし」と抱擁する。次にワガママな園児の妹が「姉ちゃん魔女だー」と非難すると、アニャは「そうね私は魔女よ、オマエを食い尽くしてやる」とマジになり幼児虐待さながら叱りつけるのだ。
シャマラニズム全開な不自然さで背筋を凍らす恐怖シーンなのだが、これが非常に重要な暗号だったりしてくる。

というのも、本作はアニャちゃんのティーンの可愛さを全力でフォーカスしている。同年の作品なら『ネオンデーモン』のエルファニングに次ぐ勢いで、10代の純潔さと官能な色気の狭間をじっくり捉えるのだが、こここそが作品の根本的なテーマを担っていると思えるのです。

ケイレブくんの童貞心がざわめき、いわゆる7つの大罪の"色欲"に触れてしまう。
移民である一家は常時寄るべない精神状態で、心の余白を埋めるものは何もなくひたすら神のお告げを待機しています。
そして悪魔はそんな性的発達段階の寄るべない少女こそ魔女に取り込もうとするのだ。

本作はこの一家以外の登場人物はほぼいません。神を崇めて、自虐する一家がひたすら堕落してゆく地獄絵図が90分続く。シャマランの様に種明かしするでなく得体の知れないモノを得体の知れないままで幕を下ろしてしまう。
ただ彼らが目にする光景が時にギョッとする演出で紡がれ、「なんだったんだ今の?」と後を引く面白さが強い作品です。

まさしくどう評価したらいいかわからない、でも怖いホラーを体験できました。
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