映画大好きそーやさん

スイス・アーミー・マンの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

スイス・アーミー・マン(2016年製作の映画)
3.7
欠けた者同士の共生と肯定。
この映画を観た方は、1度はこう思ったことでしょう。
真面目に観るものではない、単なるコメディ作品に過ぎないだろうと。
確かに、その1面というか、そういった意図で作られたシークエンスが大半を占める映画であることは間違いありません。
観始めてものの数十分のうちに、海岸に流れ着いた死体の屁で海を滑走し始めますから、初めからフルスロットルで笑わせに来ていることがわかると思います。
あまりに万能な死体で、数多の困難を切り抜けていく主人公の姿は、思わず劇場で笑いを零しながら魅入ってしまいました。途中から、次の場面ではどんな新機能がお披露目されるのかが楽しみで楽しみで仕方なくなっていきました!
ただ本作は、それ一辺倒で終わっていかないところに真の面白さを見出すことができます。
なんと驚くなかれ、本作は全編を通して下ネタを主体としたコメディで攻めてくるのに対し、最後には温かい感動に包まれて終幕に至るという、とても変な映画となっています。
このバランス感は日本で言うところの『銀魂』を彷彿させるもので、作品としてしっかり成立させるダニエルズの力量に度肝を抜かれました。
冒頭にも触れたように、本作の主役2人には欠けた部分があって、魂は死んでいながら肉体は死んでいないハンクと、肉体的に死んでいながら魂は死んでいないメニーが明確な対比、凸と凹の関係性に設定されています。
彼らが出会ったことによって、お互いが実直であれ愚直であれ生という本質を見つけ出していくストーリーラインは、普遍的な強度を誇っていて、歪ながら素晴らしい映画だなと思うばかりでした。
総じて、人を選ぶ作風ながら、色褪せない強度をもった下ネタ×感動の異色作でした!