朱音

アナイアレイション -全滅領域-の朱音のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

シマーの内部ではあらゆる情報、通信や、あらゆる生物のDNAが持つ遺伝子情報までもがプリズムのように歪められてしまう。
その影響によって驚異的な速度で構造が変容し続ける生態系と、その内部へと赴く人間の身に起こる未知の現象、人を人たらしめている「軸」のようなものがブレてしまう事の恐ろしさが否応なく伝わってくる。

キューブリックの「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせる超越的存在と、それに触れた生物の辿る未踏の領域は、不気味で恐ろしくも大いに知的好奇心を刺激してくれる。
未知であるが故に恐ろしく、得体が知れない故に気味が悪い。というものをここまで強烈に実感させられた映画は久しくなかったかもしれない。


原作によるイメージのテクスチャはあれどアレックス・ガーランドによる最新のSFトリップ・ムービーとして、幻想的で美しい視覚効果に溢れた映像と、クリーチャーの禍々しいデザインや設定、色とりどりの花々で彩られた森、風化してとんでもない事になっている死体などの美術など、ヴィジュアルが素晴らしく、本作の魅力はここに集約されていると感じた。

SFとはいうものの科学的な考証はかなりざっくりで、どちらかと言うと寓意性のある現象が次々と起こるのを目で追う、理屈よりも感覚的な作品で、原作は未読だがひょっとしたらそういったディティールは地の文で展開されているのを大部分省いた映画なのかもしれない。

そして映画として観た場合の気になる点もいくつか浮かんでくる。
キャラクターには深みがなく、元軍人や知的職業に就いている人にはあまり見えず、非常に危険な任務に赴くには、サバイバルやトラブルに適したプロフェッショナルさに欠ける、単に少し情緒不安定な人たちのように感じた。
また、いくら秘匿された問題であるとはいえ、関わっている人の数が少な過ぎるように見え、そのため全体のスケール感を小さくさせている。
物語のテンポが悪く、興味深い出来事、物語的な求心力がある展開と、割とありきたりでどうでも良く感じられてしまう展開の差が激しいなど、脚本・演出上の問題点も少なくないと思う。
朱音

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