タケオ

アナイアレイション -全滅領域-のタケオのレビュー・感想・評価

3.5
 「意味がわからない」「難解すぎる」などといった感想の目立つ『アナイアレイション -全滅領域-』(18年)だが、その内容はいたってオーソドックスなものである。主人公たちが、入ったらニ度と生きては還れないとされる「未知の領域」へ足を踏み入れるというプロットはタルコフスキーの『ストーカー』(79年)そのままだし、閉鎖空間の中で「人ならざる何かへ変貌する恐怖」により相互不審に陥っていく様は『遊星からの物体X』(82年)を彷彿とさせる(物語中盤には『遊星からの物体X』のオマージュシーンまで用意されている)。
 『アナイアレイション〜』は、扱っているテーマも特段目新しいものではない。「シマー」と呼ばれる危険地帯へ向かう調査隊の5人は、それぞれ心に傷を抱えている。ほとんど'自殺行為'にも等しい任務に挑む調査隊たち。そこにいた人知を超えた'何か'と触れたことで、彼女たちの傷ついた心は次第に癒されていく。「死」を経験することで、より大きな存在へと生まれ変わる。『気狂いピエロ』(65年)、『ファイト•クラブ』(99年)、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14年)、『レヴェナント: 蘇えりし者』(15年)などの作品が扱ってきた普遍的なテーマだ。
 本作が難解だと思われたのは、その全ての表現が抽象的で分かりづらかったからだろう。「生まれ変わり」というテーマと「細胞分裂」という自然現象の対比も、「ヘイフリック限界」といった専門用語を理解できないとなかなか呑み込みづらいものがある。また、本作では「死」を経験することでより大きな存在へと生まれ変わるという'個人主義的'な思想ではなく、「死」を経験することでより大きな存在の一部となるという非常に'宗教的'な概念がとられているため、ラストの展開も好き嫌いが極端に分かれるだろう。個人的には嫌いである。
 色々と小難しい作品ではあるが、『アナイアレイション〜』は視覚的には非常に魅力的な作品だ。幻想的なカラーに彩られた森林、朽ち果て植物と一体化した遺体、奇々怪怪な変貌を遂げた怪物たち。その美しさには、思わず息を呑む。ナタリー•ポートマン、ジェニファー•ジェイソン•リー、テッサ•トンプソンら豪華俳優陣の個性がイマイチ活かしきれていないのは少し残念だったが、見て損はない作品である。
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