こうん

リトル・マーメイドのこうんのレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
3.9
公開前からなにやらザワザワしていたこの実写版「リトル・マーメイド」界隈ですが、89年アニメ版はおろかディズニー製作のセルアニメ群もほとんど観ていませんで「知―らね」という態度だったのですけど(「ファンタジア」と「ダンボ」だけ観てる)、水曜サービスデーだからなにか観なくちゃ!という盲目的消費者の血迷いで観てきました。

ま、長かったけどそこそこ面白かったっすよ、長かったけど。
水族館に行った帰りと同じで、めちゃくちゃ海鮮が食べたくなりましたね。

オリジナルのアニメは観ていないけどアンデルセンの原作は読んでいて「はぁなるほどこうなるよねやっぱディズニー」という感じではありましたけど、ハンス・クリスチャン・アンデルセンというひとりの人間がこの原典にそっと置いてきた苦悩は、この2023年の「人魚姫」において、重い軛から解放されている…かもしれない…という受け止めも可能で、そのポジティブなメッセージは良かったんじゃないですかね。

長かったけど、いわゆる“政治的な正しさ”をキャラクターのセリフや行動に乗っけてこねくり回すようなことはせず、わりと鷹揚な作劇でシンプルに、少年少女が楽しめるようなクオリティになっていたんじゃないですかね。長いけど。

この新しいアリエルさんをみんな好きになるんじゃないかと思うし、憧れたりもするんじゃないでしょうか。前のアリエルさんを知らんけど。

「鷹揚」を「雑」とも言い換えられるんだけど、それは意図的というか、実写においてリアリズムを精緻に追及するとおかしなことになっちゃうので、ファンタジーとしての世界観というか、多分オリジナルのアニメの世界観と実写のバランス、ということになっているんだと思いますけど、そのゆるさが面白かったし、この映画が掲げるテーマの抽象性にもマッチしていた気がします。

なんにせよ、一番の魅力はアリエルを演じたハリー・ベイリーさんですよ。人魚と言えばその歌声で船乗りたちを誘惑したっちゅう人智を超えたパワーが必要だと思うんですけど、その説得力を備えた澄み切って伸びやかな声でもう、持ってかれますわね。彼女の少女のような眼差しもアリエルのピュアネスになっていたし、健康的な体躯も半魚人としての活きの良さとして海のなかをグイグイ泳いでいく爽快さになっていたんじゃないですかね。

ただ一応のミュージカル好きとしては、その発声も含めて生身の人間の身体性がミュージカルの魅力でもあると思っているので、VFXに覆われた絵面では一枚ベールをかまされた感じがしていたりもします。

そうそう、そのVFXはまぁいつも通りのクオリティですけど、各キャラクターは水の中では魅力的だけど陸に上がると「ん?」というのがあって、それがいいかどうかはわかりませんけど、そこが面白くもありました。水中だと威厳ある父であるトリトン王も、水面から出ればコスプレしたハビエル・バルデムに見えちゃって、そのギャップがね、VFXは魔法だ!と思いました。

オークワフィナは海鳥になっても最高だし、あのラップが音楽的にはいちばんテンション上がりました。(観たことないけど「アンダー・ザ・シー」は知ってましたね)

コングロマリット企業と化したディズニーに対して最近はネガティブなことを思うほうが最近は多いけど、本作はシンプルで鷹揚な作りで、こんなおじさんでも「アリエルかわいい!」となるので(童心を刺激されるという意味ですよ)、なかなか良かったんじゃないですかね、と思いますけど、お子さんが見るにしては135分は長いよ!ぼうこうばくはつすんぜん!
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