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愚行録のmazdaのレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
3.5
1年前に起きた未解決の一家殺害事件の真相にもう一度迫る記者、そして次第に出てくる人物たちの様々な愚行が浮き彫りになるミステリー映画。
自分の見た目や肩書きにこだわり、しがみつき、将来の幸せのために今できることはなんでもやると語る彼等。客観的に見れば愚かで馬鹿馬鹿しいが、他人事にはあまり思えないのは世の中で起きてることの半分以上はこんなことだから。自分と関わるすべての人間を思い出した時、誰のことも見下さず、少しも馬鹿にせず関われてるかと問われると、はいとは誰も言えないと思う。目に見える形ばかり大切にする彼等をみていてダサいかっこわるいって思うのも、そういう価値観で生きてる人間からすれば馬鹿にされてるように思うだろうし、自分の考えが1番正しいと思って生きてしまうのはきっと無意識だろうから、みんなどこかで少なからず他人に対してそういう目線をもってしまってるんだと思う。

幸せになるために、良い学校や良い会社にはいる、そういう環境の人間と人付き合いをする。じゃあ何故それが=幸せになるのか。それを手に入れていったいなんなんだろうか。そこには優越感から得られる幸せ意外何もないのではないかと思う。そしてその幸せは自己満足意外のなにものでもない。作中もそうだし、現実世界でも、殺人のほとんどが自己肯定感の表れだと思う。
例え友人だろうと恋人だろうと他人だろうと、自分が相手から下に見られてるような気がするというだけで、自分のプライドが許さない。自分が下かもしれないと感じた瞬間、自分と相手の間に線を引き、そもそも種類が違う人間だと自分を守り、あらゆる行為を「あなたのためにしてやってる」と言うかのように装う。
バスで席を譲るシーンはまさに「してやってる」のシーンで、序盤のシーンはわかりやすくそれが表現される。そして終盤もう一度席を譲るシーンがあり、序盤のものとは少し異なる形で描かれるが、序盤のシーンのせいでやはりこれも彼の優越感のための親切にしか見えない。自分のプライドと幸福感を捨てられない人間というのは、そのためだったらなんでも捨てる。そして悲しいことにそういう人ほど上にあがるのが早い。日本は差別社会じゃなく階級社会。階級制のせいでそれが自然と差別になる。

とても考えさせられるテーマだっただけに物語は正直少し物足りなかった。ストーリーや俳優陣の演技というよりは、この映画の演出力。重苦しい映画がわりと好きな自分には、『葛城事件』のような観ていて息をしているのが辛くなるような重圧感とか『怒り』のような感情を揺さぶられ訴えかけてくるものがとても弱かったせいで、考えさせられるメッセージはあっても強く心で何かを感じることはなかった。
「3度の衝撃」は確かに衝撃なのだが、どこか表面的で掘り下げが浅く瞬発的な衝撃。もっとグサグサきてほしかった。個人的には主役の記者を演じていた妻夫木くんの1年前の事件を今頃記事にした目的みたいなのが1番衝撃だったかな。それに気づいた時、今までみた2時間の見方がガラっと変わってしまうじゃないか、、!と思って、何度も見るような映画じゃないけど、きちんと事態を理解した上でもう一度見たいと思わさせられた。作品はともかくやっぱり妻夫木聡・満島ひかりの演技力は人を惹きつけるものがあり、これだけでも見応えあるかもしれない。
エンドロール前に出る『愚行録』の文字をみて、『愚』の字に真横にぐっさりささるその線がお腹に思いっきりさしているような、作中の殺人のイメージにピッタリはまって、ロゴにめっちゃセンス感じた。
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