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朝が来るのmazdaのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
4.6
生みの親と育ての親。
望んでも子供を授かれない人と、望んでいないのに子供を授かった人。

同じく永作博美が出てる育ての親と"本物の親"を描く『八日目の蝉』がものすごく苦手だ。片側目線でしか描かれないことで、描かれないもう片側の複雑なきもちが絶対にあるのに、きちんと汲み取られないまま心情描写が雑でどちらかが可哀想でどちらかが悪に仕立て上げられる(ように見えてしまう)ことがとにかく嫌だった。

河瀬監督の映画が凄いのは主役だけにフォーカスするのではなく脇役それぞれの思いやバックグラウンドも観者が容易に想像できるように見せてくれること。それぞれに事情があり思いがあり絶対一方的にならないこと。
例えば喧嘩をしているAとBの話を間に入って聞くという立場に置かれた時、どうしても先に言い分を聞いた方の肩を持ってしまいがち。あるいはその人にもともと持っていた印象で信用や良し悪しを決めてしまいがちだ。
基本的にドラマや物語は良い人間と悪い人間というのが明確に存在して成立するものが多いけどこの人の映画にはそういうものが少ない。うまく噛み合わない歯車を誰かのせいにはしない。一人一人の感じ方を大切にしているのがわかる。
だから変にドラマ臭くなくてドキュメンタリーとはまた違うけどものすごく身近な今目の前で起きているような現実世界の話を見ている気になる。静かに感情的にさせる。この人の映画の世界観本当に好き。

2回観賞して2回とも次の日目が少し腫れるほど号泣したのだけど特に大好きなシーンが2つあった。
1つは札幌行きの飛行機が欠航したあとのシーン。泣き崩れるARATAの、子供を強く望むきもち、これからやろうとしてることの怖さ、自分の身体に起きていることへの心細さ、相手への申し訳なさ、いろんな気持ちがぶつかり合って矛盾して堪えられなくなって溢れ出したように見えてあのシーンにあのお父さんの抱えてる全てが詰まっている感じがして凄かった。それをそっと受け止める永作博美の優しく強く隣に座っている姿がとんでもなく美しかった。
似たような状況で悩んでいる人を知っているし、理由は様々だけど同じようなことで悩まされてる人も結構たくさんいる。ただやっぱりこういう気持ちって信頼している家族や友人にでもそう簡単に見せられるものではないからいろんな人がこんな風に見えないところで抱えてるんじゃないかと想像しただけで涙が止まらなくなってしまった。

2つ目は広島の寮で誕生日を祝うシーン。
大前提として軽い気持ちや考えなしで育てられないのに子供をつくるな。その自分の欲求だけで生まれてくる子だけでなくどれだけの人の人生に影響するか理解しろ。どんなバカ親でも生まれてくる子になんの悪もなく、だからこそとんでもなくものすごい責任が必要。望まれずに授かり育てられないのだから親として怒るのが当然だ。
それを踏まえた上でいくら望まれなかったとしても、もし産むとなれば安産を願うのはあたりまえだろう。どんなに馬鹿な子供でも自分の家族の体を1番に考えなさいよと思う。どんな子でもお腹の子と同じなんの悪意もなく生まれてきた人で、誕生したことを祝福されるべき人である。愛される義務がある。
みんなに囲まれて誕生日を祝われるシーンのあたたかさが凄かった。誕生日のあの子がこれまでどんな日々を過ごしてきたか全ては語られていないのに、こっちまで言葉にならない嬉しさがありボロボロ泣いた。生まれたことをおめでとうと言ってもらえることがこんなにも幸せなのかとすごいきれいな時間だった。

これは人によって意見が大きく異なると思うけど、主役の中学生で子供を授かってしまった子は、確かにまだ子供だったけれど、支えてくれる理解者、協力者、そういう環境さえあれば母親になれる子だと私は思った。「広島のおかあちゃんと私たちで大切に育てた子をあなたに関わってほしくない」と言われた時のぐちゃぐちゃになった自分に自分で気づける彼女はまだ終わってない大丈夫と思えた。
責任だけでなく現実的な金銭面や周りからの評価、そんな簡単になれるよと言ってはならないと思うけど、周りが彼女をもっと信じてあげる必要もあった。好きな人ができたきもちや子供を大切にしたいきもちを否定したくないし、もっと寄り添ってあげる必要がある。
少なくとも産んで帰ってきた娘への最初の話が受験やら近所への対応やらってさすがにピーマン頭にもほどがあると、子供が何考えてるかわからないのなんて赤ん坊の時から同じだろうと思うのだけど理解の貧しい親というだけでは片したくなくてここがもう少し掘り下げられていたら満点に近かった。

だからこそラストシーンに救われる。出逢っていないだけでわかってくれる人は世界中にたくさんいると思って欲しい。エンドロールのアサトヒカリに涙がとまらないエンドロール1番最後の小さくて優しいあの言葉まで込みでこの話は成立するから絶対最後まで立ち上がらずに見てほしい。

切り取る映像の美しさ、音、光が繊細で、圧倒されるとかではないのに何故か吸い込まれるような世界観をもってる。ただただきれい。
あさとくんと育ての母の似ているところ、広島の母ちゃんと似ているところをたくさん感じる。良いところをちょっとずつ吸収した子でこれからの成長を想像してわくわくした。たくさんの描かれないこれからやこれまでを想像させる映画。どタイプでした。今年はコロナもあり延期もありで今年公開の映画は17本しか見てないけど暫定2位。
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