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スウィング・キッズのmazdaのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.9
韓国人×黒人。
戦争映画なのに音楽映画。
ここまで笑いと悲しみが同時に襲う映画を他に知らない。

まだ今年半年あるけど、2020(日本)公開映画のベストが出てしまった。私の中では間違いなく断トツ。
素晴らしい映画を見た。絶対にもう一度映画館で見たい。絶対に見る。
私がこれまでハンカチが足りないというレベルで泣いた映画は『ダンサーインザダーク』『トイストーリー3』『湯を沸かすほどの熱い愛』の3作なのだが、そこに加わったのがこれ。

『セッション』のような鳥肌が止まらない圧倒する音楽、『ララランド』のような夢と現実を両方見せて『ダンサーインザダーク』のような心臓はがされそうなほどドキドキが鳴り止まない心拍数、『草原の実験』のような言葉にならない衝撃。
私の好きな見せ方全てがつまった映画だった。とにかく余韻が凄くて思い出しただけでも目頭が熱くなる。


Black lives matterは掲げるくせに、コロナが結構流行り始めた頃に、中国人出て行ってほしいと言ってた人たちを私は忘れない。そういう人達にこそこれを見てほしい。黒人やユダヤ人差別には悲しめたり、あるいはアジア人は差別と無縁と思っていたりする人は多い。
嫌いな人がいるのは避けられないことだし、文化によってその国の人の特徴や性格は確かに似てくるから当然苦手な人ばかりの国があるのもわかる。

タクシー運転手をやっている父が在日朝鮮人の客に迷惑をかけられたから朝鮮人は嫌いという話を聞いたことがある。その在日朝鮮人が失礼だったのは本当だろう。でもそいつが失礼なだけであって朝鮮人が失礼なわけではない。そいつと一緒にされる他の朝鮮人からしたらたまらない。
自分がもし、前会った日本人にむかついたからお前も嫌いだと言われたら私はめちゃくちゃ悲しい。一部の人間の行動、言動、考え、生活だけで国のイメージを持ち距離を置くことはあまりにも幼稚すぎる。

必ずどこの国にも良い人間と悪い人間はいる。"その国の人っぽくない"人もいる。
空気が読めず不親切な日本人もいる。ダンスの苦手な黒人もいる。マナーの悪い赤の他人の中国人の態度を代わりに申し訳なく思うよと言える中国人も知ってる。国のやり方に同意できずに泣きながら脱北した北朝鮮人もいる。女子力高い男もいる。お米が嫌いな日本人もいる。辛いものが食べられない韓国人もいる。男のような女もいる。
○○人は△△な人が多いとは言えるが、○○人は△△だ。とは言い切れない。差別する人たちの大半は無自覚な人が多く区別だと言う。

好きなものに対して素直でありたい。どんなに駄作と言われようと好きなものは好きだという映画があったっていいし、どんなに流行らなくても好きな音楽があったっていい。
当事者にならないとわからないことは間違いなくあるけど、もし大切な人がアメリカ人にどうかされてもアメリカの映画は変わらず好きだし、韓国人にどうかされても辛いものはきっと好きなままだ。それでいい。
主人公の青年が、俺はただ踊りたいと言った言葉が全てでそれ以上説明することはできない。何を好きでもいい。好きなものを制限される理由など絶対にない。

違う国で違う言葉を使う相手と、踊ることが好きというだけで繋がることができる。助けたくなったり、守りたくなったり、笑いを共有できたり、悲しめたりする。言葉が伝わらないのに。
たくさんのやり取りをみてるうちに、いつか英語をちゃんと勉強して言葉で通じ合える日が来て、あの時は話せなかったけどこうだったよなと話しながら大きな舞台に立つ姿までを知らぬ間に想像してしまっていた。ララランドの最後の回想のように。みんな何かに憧れ夢を持ち、これからに期待する。それが生きてるということだ。
本当は争わなくても違う国の人を理解しあえるものがあり、方法がある。本来文化とはそういうものなはずだ。

それでもこれはやっぱり戦争映画だ。これはファンタジーじゃないから事実は変えられない。届かなかった願いが他にどれだけあるのか。とんでもなく苦しく、あまりにもあっさりと素晴らしかった時間を奪う。
ただ戦争がなければ彼等も出逢うことはなく、タップダンスを知ることだってなかったかもしれない。
悲しいきもちも恐怖も大前提にあり、けれど自分が仲間やダンスに出逢えた理由を理解し、リスクを全てわかった上で彼は踊りたいと言っていた。もう誰も止められない。あの一瞬が全てだった。この苦しい世界のなかで、踊ってる時が唯一生きてることを理解できた時だ。だから彼は踊ることをやめなかった。彼のタップダンスを見るキラキラした目を忘れられない。無防備なまっすぐなきもちが恐ろしくて美しかった。もう本当にダンサーインザダークで感じたものと同じだった。

飽きてはならない、この苦しさから目を背けてはならない。この先絶対に起きないようにずっと伝え続けなければならない。
これをみて強く確信できた。差別をする人、争いを望む人を決して許してはならない。そして絶対彼等と同じことをし返してはならない。
戦争映画に1番も2番もないのだけれどそれでも度ストレートにそれが伝わり今まで見た中で圧倒的に響いた戦争映画だった。
苦しくなることをわかっていながら何故か何度もみたくなる映画。気になる点もいくつかあったが終盤にとにかく圧倒されてしまいもうそんなことを気にしてる余裕もなくなるほど感情ぐわんぐわんだった。大好きだとさらりと言うのを躊躇うが、それでも大好きだと言いたくなる映画だった。映画も彼等も終わらないでほしいと思ってしまった。

主演のドギョンスがもうめちゃくちゃかっこよくて、スウィングキッズ5人で踊るところ、タップ中の不意打ちに、問題のソロ、ラストの2人で練習するところ、全てずっとずっと見ていたかった。恥ずかしながらどなたか存じ上げず、この人EXOの人なんだ!とびっくりしてしまった。イケメンになった四千頭身後藤みたいだな!なんて言ってすいませんでした。。。



追記:1日たっても余韻が凄くてずっとタップが鳴り続け、sing sing singがずっと頭で流れてる。するめ映画ならぬ、次の日まで引きずる二日酔い映画に認定。。。ベスト10変わるかもと思いつつ全部好きで選べないので2回目見てから決めます。。。
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