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街の上でのmazdaのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
3.8
元下北民にはとんでもなくエモエモで、卒アルを見てるような、昔の友達に会ったような映画だった。

正直作品として好きかと言われると、期待値をちょっとあげすぎた感が否めなくて気持ち的には3.6くらい。いまいちピンとこない私の苦手なタイプの女の子と結ばれたりとか(女優さんはとても好き)、笑えるんだけれど独特な会話のテンポとか。人間模様が不思議な感じで、笑えたわりにオチはしっくりこなかった。

ただあまりにも、作中のいたるところに私の記憶を引き出させるきっかけになるものが多くて、物語の内容にさほど入り込めていないにも関わらず見終わる頃にはすごくノスタルジーで心がいっぱいになっていた。

私が下北住み始めた頃はまだ工事が始まっていなくて、立退になった北口の個人経営の立ち飲み屋とか市場界隈の人がまだいて、開かずの踏切を避けるために当時2階にあった小田急改札を通って北口から南口に移動したりして。
作中でも少しだが工事の様子や昔の下北の話が出てきて移り変わる時代の狭間にいる様子が見れた。

作中出てくるカフェの店員さんや、お巡りさんを見てて下北の人たちの他人とのコミニュケーションの距離感を思い出す。
コインランドリーのおばあちゃんとか深夜に空いてる駄菓子屋のおじいちゃんとか互いに名前も知らないのにおはようとかこんばんはとか会うたびに必ず言ってくれていた。よく行くコンビニのお姉さんが私の仕事も知らないのにお仕事お疲れ様ですとかいってらっしゃいって言ってくれていた。引っ越しのダンボール集めで「いらないダンボールありますか〜」って酒屋さんで聞いたら居合わせた知らないお客さんが「うちにたくさんあるからもってきな〜」って家まで案内してくれてついでにお茶まで飲んでったこともあった。
田舎や海外じゃ普通にありそうな光景でも、ここは新宿や渋谷からすぐの都心なはずで、そんなことを忘れてしまう空気をあの街にいる人たちみんなが持っている気がして、私の中ですごく特別感のある大好きな街だった。

一緒に下北で過ごした人達のこともこの物語の彼等を見て思い出す。真の可愛い子というのは謎が多く未知で、何を考えているのかつかめないような不思議な子が多い。この映画に出てくる女の子達を見ながら、むかしごたごたがあった可愛い女の子の友人を無意識で重ねて見てしまい、あの子も下北遊びに来てくれたなあと関係のない些細なことまで全てリンクしたりして。当時は死ぬほど悩んだことも、今じゃ映画見てふわっと思い出す程度のネタにすぎないことが、また時間の流れの早さを感じさせていて。映画を見ながらいろんなことが走馬灯みたいに頭の中で流れふわふわしたきもちになった。

映画でも本でも音楽でも、作品自体の評価ではなく、思い入れで評価してしまうものが必ずあると思ってる。自分がよく知っている物事が題材になっていたり、作中の人物と同じような体験をしたことがあったり、何かを思い出して自分と重ねるというだけで何故かすごく感情的になり、そしてそれが心地よくなる。

例えば自分があまり良いとは思えなかった作品を、好きだと言ってる人の話を聞いて、共感できないことがある。でもその裏には、私がもっていない経験や知識が、その人の評価の理由になっていたりする。
映画を見る人の数だけバックグラウンドがあって、その記憶によって感じ方や評価が人によって変わるんだと思う。だから共感できない評価も含め、人のレビューやその物を好きな理由を聞くことが大好きだ。
レビューを書いてるうちにより懐かしいきもちが深まりあきらかに3.6ではなくなり思い入れだけで0.2もあげてしまった。

映画館でのクスクスとした笑い声とか作品内の空気がシアター内にも流れ込んで、あの街と同じようなゆるい空気で見ていることが心地良くて、ストーリーにさほど惹かれていないのに映画館で見る価値をとても感じた。事前知識無しで見たから下北が舞台ということも知らなかったが、この映画をもしトリウッドで見ていたのならもっと評価はあがっていたと思う。

画にならないという理由で(もちろん他にも撮影が難しい現実的な訳があるだろうけど)小田急の再開発工事はほとんど撮影しなかったらしく、実際ちょっと昔の下北沢を意識してるように思えた。
ただこの先もこの映画が残り、何年もあとに見られることを考えたら、移り変わる今の様子にもう少しフォーカスしてほしかったなあと個人的には思う。そうするとこの監督の作風ではなくなってしまうのかもしれないけれど。

雰囲気の妨げになるものが映らないというのはある意味でファンタジーのようで"映画の中の世界"ということを強く実感させる。よりリアルな街を再現するならおしゃれじゃなくても古いものと新しいものが混沌する街をあらわしてほしかったし、その街の上で生きる彼等は、どちらにも偏らず流されないという深みをもっと感じれたのかなと思う。

イケメンまではいかないちょっとおしい感じなのに何故か気になって見ちゃう男の子みたいな映画。
"雰囲気映画"というと表面だけこっていて中身がないようなネガティブな表現に聞こえるけれど、これは良い意味で言う"本気でやった雰囲気映画"って感じ。
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