八木

彼らが本気で編むときは、の八木のレビュー・感想・評価

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
1.1
この映画には好きな部分と嫌いな部分がはっきりしてます。正直に言えば、泣いたシーンもあるし、いいなと思うところもあったんだけど、それ以上に荻上直子監督の気質なのかなんなのか、おそらくは無自覚に人をぶん殴ってしまっているところがあり、その悪質さの方に意識を奪われることが多かったです。全体を通して不快でした。
よいところですが、LGBTについて「バランスとるぞ!」という気概のようなもののを感じました。主役のりんこさんは、画面に現れた時完全に男でも女でもなく、困惑させられるようなルックスやたたずまいをしているのですけど、そのように生活してきたという実在感を得るたびにこちらの気持ちに余裕を生んでくれるわけです。そういう、疑似的に多様性を受け入れた気分にさせてもらった時点で、僕はこの映画に一定の価値があると思いました。あと、「奪われた自分を取り戻そうとする人物」がツボなので、『あたし、おっぱいが欲しい』と告白するところは泣きました。
悪いところですが、トランスジェンダーのりんこさんが必要以上に女性的役割を引き受けさせられている時点で、そもそもジェンダー考証甘いんじゃないか、と感じました。この映画は性的マイノリティを扱ってる時点で、2017年最新のLGBT観を反映させないと存在意義が薄いと思うので、りんこの取り扱いはもっと注意深くてよいと思います。それから、りんこにとって(問題を浮かせて扱いたい人にとって)良いも悪いもすげえ都合のよいバリアがぼんぼんと登場して、時々その適当に負わされた役割のキャラクターに「てめえら制作サイドの差別意識すげえな」と感じました。ネタバレを避けて単語を書けば、小池栄子、体育教師、病院。ラスボスが田中美佐子って感じですかね。そういう実質死んでたり殺すために作られたキャラを使って、「お前ら観客は当然そうじゃないよね?」と遥か高みからぶん殴ってくるような根の深いどす黒さがあると思います。
僕の身近にLGBTやシングルマザーが見当たらないので、そういう切羽詰まった方にとってこの映画はどう映るのかは興味あるところです。僕ははっきり嫌いな映画ですが、ファンがいるのもうなずける作風でした。
八木

八木