小

マンチェスター・バイ・ザ・シーの小のレビュー・感想・評価

4.5
時間を忘れた。劇的な表現はないけれど、主人公の言葉、行動の説得力につながるような、彼の人生の積み上げを描写していたから。そしてテーマに共感した。終盤「このまま終わったら、乗り越えないことを肯定するから良いなあ」と思っていたら、本当に終わった。うわっと思った。ジーンとした。

映画を観ていると、困難を克服して強く、明るいハッピーエンドにスッキリしたり、いやいや現実は甘くないとばかりに救いのない結末に考えさせられたりするケースが多い。しかし、本作はそのどちらでもなく、繰り返しになるけれど、「乗り越えないことを肯定する」。

大きな悲劇や挫折により、心が壊れる。時が経ち、周りの人は思うだろう。いい加減、昔のことは忘れて、前を向けばいいのに、と。その方が幸せなのに、と。でも心が壊れたままでもいいじゃないか。困難をバネに成長することを目指さなくてもいいじゃないか。

むしろ心が壊れたままの自分を大切にする。心が壊れた人間として、自分のできることを精一杯やる。心が壊れるほど辛い経験をしたのに、また誰かのために、自分の心に鞭を打ってまで頑張らなくても良いのではないのか。

この映画ような感じで、心が傷ついた人に寄り添ってくれる作品を、個人的には初めて観たかもしれない。じわっとしたのは、自分自身、挫折をバネに頑張ろうと思ってはいるけれど、なかなか上手くいかないという思いがあるから。年相応の人生経験を重ねてきた人、若くして大きな苦労を経験した人、そんな人達に沁みる映画だと思う。

●物語(5.0点×50%=2.50)
・テーマはもちろん、主人公の丁寧な描き方が良い。個人的アカデミー賞作品賞は本作か『沈黙』。

●演技、演出(4.5点×30%=1.35)
・ケイシー・アフレック、若干カッコよすぎかも(ひがみです)。

●映像、音、音楽(3.0点×20%=0.60)
・冒頭の海の映像が印象的。風景が良かったかな。
小