140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ウインド・リバーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.3
”どうか足跡を消さないで”

この河を辿って行こう
悲しみのルーツをさがして
※B'zの「ROOTS」より。

アメリカのワイオミング州にある「ウインドリバー」という地域。先住民保護区として、保護されたのか?隔離されたのか?記号化されたのか?夜はマイナス30度を下回る厳しい寒さと、人間を嘲笑うような雄大で雄弁な大自然。そこで死体として発見された少女。レイプされ、極寒の夜を息も絶え絶え裸足で逃げて凍死した少女。保護区として管轄が複雑化した地元警察とFBI、そしてかつて娘を亡くしているハンターが、真相を求めて消えゆく足跡を辿っていくと…

テイラー・シェリダンは天才か!?
「ボーダーライン」
「最後の追跡」
そして
「ウインドリバー」
フロンティア3部作として描かれた現代に蘇った西部劇と、そしてアメリカという超国家の暗部を浮き彫りにさせるサスペンスアクション。

題材は失踪した少女の死体と、その足跡を辿って真相に迫っていくサスペンスと、娘の死から救済されようとするハンターと管轄問題に闘うことを余儀なくされた女FBI捜査官のバディムービー。さらに西部劇らしい一瞬の緊張の糸を振れ幅としたガンアクションと銃声のキレ味。単なる娯楽アクション映画とは一線を画した心臓に突き刺さるような銃撃シーンは圧巻だった。

映像的な伏線回収のセンスというか、象徴のさせ方は、冒頭の羊の群れをコヨーテから守るジェレミー・レナー演じるハンターの狙撃そして撃ち殺されたコヨーテが引きずられ白銀の雪原の上に血の跡が作られるシーンから前半~中盤の殺人と真実への追及、そしてクライマックスのアクションシーンに昇華されていることで見事だと圧倒されてしまう。その中で、主人公のかつて亡くしてしまった娘と女FBI捜査官がダブって見えるシーンや、執拗にギミックとして投入される雪の上の足跡やスノーモービルの後は、この”ウインドリバー”という地名柄、吹雪で埋めれてしまう真実に迫るための証拠の危うさを執念深く追う姿勢を貫く反復行動が作品の主題とシンクロしていく。映画ラストにあるテロップが出されるわけだが、この真実らしからぬ事実を知らされることによって、”ウインドリバー”=”風の川”と名付けられた無常の地の危うさと、生命的な強靱さを要求されながら、アメリカという巨大国家の都合に不条理な抑制をされてしまった暗部としての象徴性が際立たされる。

冒頭に語られる詩と極寒の夜を疾走する少女の対比や、この事件の捜査そして解決、さらに悪への裁きを与えることでのこの物語の救済は、西部劇として法の番人の外の立場にいる主人公のハンターの過去と現在のバディとの関係により、未来への救済として機能していて、今作の事件における終止符の打ち方には、単なる娯楽作では到達できないであろう今作の魅力となった。

大事な人と死別したことの辛い現実を受け入れることへ、道を模索する者が、足跡といういずれ埋もれる危うい可能性を執念深く追うことで、自分自身が原罪として感じていることからの過去も決着をつけることで癒され、そして他人の癒しにエネルギーを向けてあげたり、他人の成長につなげたりと複数の項目をクライマックスで収束させる脚本力は、「スリービルボード」と一緒に今年のアメリカ田舎犯罪モノとして括ってもいいかと思った。そして何しろ中盤のライフルと拳銃の正面の撃ち合いの瞬時の迫力の出し方や、クライマックスの徐々にボルテージを上げる緊張感と爆発的バイオレンスの解放(ここでの銃撃により人間の吹き飛び方のダイナミズム)を見るだけでもお釣りが来るレベルの画面的納得感でだった。今年年間ベスト10に残れるだけのエネルギッシュな作品なのは間違いない。