Adachi

ウインド・リバーのAdachiのネタバレレビュー・内容・結末

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

満月の下に凍てつく大地を少女が必死に逃げているオープニングタイトル、山羊を狙う狼を一匹は撃ち一匹は逃がすコリーの仕事、彼と元妻らしき女性が子をよりよく育てようとしてのやりとり、息子に教える先住民式の馬の乗り方、狩りを子に叩き込むピューマのやり口、当たり前だけど冒頭に描かれるこれら全ての根底に生死があることに驚き、一気に引き込まれた。

終盤の病室でコリーが「都会と違ってここには運など無い、死ぬのは運のせいじゃなく弱いからだ」「僕は命を救ってはいない、君はタフだ、戦ったから生き延びたんだ」と語る時、彼が「戦士」という言葉を使う意味が分かる。裸足で10キロ走る少女もまた「戦士」であり「同志」だ。

全編に渡って、「この物語」にしては人々が喋りすぎ…上手く喋りすぎ。ただ作中一度目のコリーの涙とそれを見たジェーンの「point me」に、個人的にあえてそうしているのかもと思った。だって「セリフの応酬」でも無いとやっぱりちょっと辛すぎるじゃないですか。

ナタリーの兄はコリーに「妹の恋人はあんたくらいの年だ」と言う。実際希望の無い社会ほど女性は年の離れた男とくっつく…と言うよりくっつかざるを得ないものでもある。しかし終盤挿入される、女の肌が気持ちよくて仕方ないという男の指、他の土地を激しく求める女の目、そこには確かに何らかの愛があるとでもいうような救いを感じ、正直、皆が喋りすぎるこの物語において、「今」は喋れない二人には奇妙な魅力があった。

「誰に宛てた文でもいい、彼女から出た言葉なら」

始めに語られるこの「文」に「my perfect world」とあるのでイーストウッドの「パーフェクト・ワールド」を思い出していたら、どことなくイースト・ウッド映画に似た何かを感じた。
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