じゅ

ダムネーション 天罰のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ダムネーション 天罰(1988年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

U-NEXT解説だと「"タル・ベーラスタイル"を確立させた記念碑的作品」だそう。クラスナホルカイ・ラースローが脚本を手掛けてヴィーグ・ミハーイが音楽を手掛けたってのを指してタル・ベーラスタイルだと言ってた。

映画監督のこととかよく知らないけど、そんな中でもこのタル・ベーラは好きな人の一人。まあ今のところまだ全員で二人しかいないんだけど。
冒頭の解像度のコントロールからもう好き。大地に並び立つ鉄塔はワイヤーで繋がっていて、ワイヤーを伝って等間隔で並べられたゴンドラが一定のペースで流れていく。後で言われるけど、石炭を運んでいるらしい。この大地で何が始まるかと思いきや、視点が引いていって実は部屋の中から窓越しに見ていた景色だとわかる。さらに、細い白煙がゆらゆら漂ってきて、誰かが煙草を吸っていることに気づく。間もなく、男の陰った後頭部が画角に入る。
あとその後頭部の男(主人公)が髭剃って出て行くんだけど、普通に屋内の廊下で紙か本か何かが燃えてるのを素通りするところも地味に好き。俺だったら何事かととりあえず辺りを見渡すと思う。そういう意識の違いを生み出すような、俺が住む場所とは全く異なった地での物語なんだなーってなんか感激する。


ある田舎の町。カーレルはバーの歌手の女と不倫していた。女の夫はカーレルの友人だった。女には娘もおり、家庭を守るためにカーレルとの関係を終わらせたがっていた。
毎晩5軒の酒屋をはしごして帰って寝る日々を繰り返すカーレル。別の友人が経営する酒屋で、彼から仕事の話を持ちかけられる。某国でとある住所を訪ね、受け取った小包を指定された場所に届ける、という怪しい仕事だった。カーレルは町を出ることを嫌がり、不倫相手の夫に代わりに頼むよう伝えた。夫は仕事を受け、指定の場所へ向かった。
夫の留守中、女は歌手として都会で成功するために出て行こうとしていた。しかし、女への未練が抜けないカーレルが執拗に復縁を迫り、結局女は出て行かずカーレルとやり直すことにした。
夫の帰宅後、夫婦とカーレルと仕事を持ちかけた友人の4人で、とあるパーティに参加した。友人が言うには、夫は小包の中身を少し抜いて届けたとのことだった。酒が回って夫が居眠りし始めた頃、女は友人の胸に寄りかかるように密着してダンスをしていた。やがて2人きりで友人の車に乗り込み、熱烈な口づけを交わして女は友人の下半身に顔をうずめた。
明くる日、カーレルは警察署へ。友人の犯罪を告発するためだった。諸々話したカーレルは署を後にし、荒野を独り歩いて行った。


台詞が難解すぎてえぐいんだけど、その難解な詩みたいな台詞以外から読み取れるとこだけ読み取ると、自分のために他人を捻じ曲げた・捻じ曲げようとした人たちとその先のdumnation(地獄に落とすこと、天罰、破滅)の物語かと思う。

カーレルは、都会で歌手として成功しようと出て行こうとした女を、そばにいてほしかったから引き止めた。どうにか寄りを戻したその女を奪った友人を警察に売った。
その末、離れたくないと言っていた町をどうやら離れることにした。友を売った以上、離れざるを得なくなったとでも言えるのかな。町を離れる道中、野良犬と威嚇し合う描写があった。中盤の辺り、カーレルが女に野良犬について話す場面があって、みすぼらしい犬が生命の最期に何か残そうと無駄な努力をしていたみたいな内容だったか。カーレルは最期の無駄な努力をするみすぼらしい犬になり果てたということだろうか。警察署で話した、自分の名を出していいから内密にしてほしくないという告発内容が、その最期の無駄な努力にあたるのかな。そして、「最期」ということは、カーレルは自らの生命を終わらせにどこかへ向かっていたのだろうか。
(というかこの男、物語の外で別の女を愛していなかったからと罵倒して叫んでみせて暴行して自害に追い込むとか終わり過ぎてる。)
てか野良犬との吠え合いのところめっちゃ好き。土砂降りでずぶずぶになって泥でぐしゃぐしゃになって、でもそんなのものともしない、人間として終わった感というか人間を捨てた感というか、そんなまっすぐな描写がどういうわけか哀れなのに清々しい。

女は何やら一時的な気持ちの変化であらゆる人間を捻じ曲げようとしていた印象。
家庭を守るために愛人のカーレルと別れようとする最初のくだりだけは真っ当だったけど、同じ口が一人で出て行くとか言うかね。「私たちより立派な大人になってほしい」と言っていた娘はどうなる?遥々外国に行って帰ってきて妻がいなくなっていたら夫は何を思う?そんなに大切に思っている娘とか、自分にぞっこんな男がいながら「孤独だ」と思うか。まあだからこそ夫はキープしつつあんなにころころと別の男に乗り換えてたわけか。
最終的には歌手として成功するとかって話は流れて夫は逮捕されるのかな。大変なこった。どうにか娘は育ててやってくれ。

友人は自分の儲けのためにカーレルを裏の仕事に引き入れようとして、実際にカーレルの不倫相手の夫を引き込んだ。加えて、性欲か何か知らんけど女を奪って、「君(その女)を失ったら終わりだ」と言っていたカーレルを終わらせてしまった。
まあその後カーレルの警察署への告発内容によって逮捕されるのかな。おつかれ。

あの夫は、言うなれば私欲のためにカーレルの友人の信頼する心を捻じ曲げたかもしれん。まあどうせ逮捕されるだろうから知ったこっちゃねえが。
この人も逮捕されんのかな。小包とやらの中身は知らんけど、運び屋を引き受けたし、しかも中身ちょっと盗んだらしいし。金とか違法薬物の類とかかな。

カーレルの話に戻ると、刑務所に入ることは一時的な破滅だと楽観視すべきでなくて家族が破滅する、みたいなこと言ってたっけか。
一応は友といえど、カーレルは自らの手で破滅に追いやったな。まあ司法的には正しいだろうけど。そういえば署では「友と愛した人が道を外れた」みたいな言い方してたかも。「愛した人」が含まれてるということは、不倫相手の女も告発の内容に含まれている?
ということはカーレルの友人と不倫相手とその夫の3人全員を破滅させたということになるんだろうか。加えて自らの身も滅ぼしに行ったと。静かにそんな凄まじいことになってたのか。


このカーレルという人物は、場面転換するたびに物陰に隠れがちだった。隠れていたのは決まって女に会いに行く時だった気がする。
作中で触れられていた罪の意識とか臆病さの表れに見えた。

そりゃあ友人の妻と不倫してんだから罪の意識は常に持っといてもろて。
あのクロークの姐さんが旧約聖書を引用して、外には剣、内には飢えと疫病、山に行った者は罪に苦しむみたいなこと言ってた。あと、金も銀も飢えを満たせずただ罪を誘うと。カーレルってこの友人を、裏稼業の連中が関わってるであろうつまり剣が命を狙ってくる外に出させた上、飢えも満たせぬ金銀絡みのことをやらせて盗みの罪を誘発させて、その末全員告発したわけか。なおさら罪の意識持つだろうな。警察署で語ってた「義務を果たすためとはいえ友人を売るのは心苦しい」みたいなことは本心かも。

臆病さについては、バーの彼に言われてた「歳のせいだ」みたいなやりとりしてたの以外ピンときてない。でも、不倫のことで友人に詰められた時は「何かの間違いだよ」となだめていたその次の場面では彼の金銭面の問題につけ込んで得意げに破滅について語ってみたり、自分との関係を切って歩き去ろうとする女に「止まらないと殺すぞ」とか言ってみたり、そうやって相手の弱みが露呈してる時ばっかり活き活きするとか勝てそうな人には強気に出るとか、そんなところに典型的な臆病さを感じる。
そういえばカーレルって、歩き去ろうとする女に「君を失ったら終わりだ」みたいなこと言ってたっけか。女が別の男に行ってしまった時点で「終わり」が確定していたのか。クロークの姐さんはまだ間に合うと言っていたけど、カーレルは何もしなかった。これまた臆病さゆえなのかもしれない。結果、「終わり」を受け入れる格好になった。


カーレルの罪の意識とか臆病さとか、何もかもが彼を最期の破滅に向かわせていたのかもしれない。
じゅ

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