140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ロスト・バケーションの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ロスト・バケーション(2016年製作の映画)
3.9
生きろ!ソナタは美しい…

「美女と野獣」というファンタジーなど完璧なる大自然の前に絵空事。今作は「美女とサメ」いや「美女vsサメ」…美女はたった1人、生への執念が斬新な映像によって解放されるスリリングなサスペンス。

このご時世にサメ?
「シャークネード」や「ダブルヘッドジョーズ」みたいな…そんなことはない。監督自身も「ゼログラビティ」を意識したとあるように空間と時間を絞り、脅威に対して生の執念を燃やすヒロインの死闘がしっかりと描かれている。決してサメの造形アイデアで置きに行くような映画ではない。

監督はジャウマ・コレット=セラ。個人的に好きな監督であり、何かデカイことやってくれるんじゃなかと密かに期待している監督だ。

「エスター」「アンノウン」で後出しジャンケン型のサスペンスを叩き込み、「フライトゲーム」「ランオールナイト」では空間と時間を限定された中、”乗り越える””限界を超える”といった男気あるアクションを神話的な側面すら感じるクリアでスタイリッシュな映像とスローモーションカットのやや鼻に付くが絶妙な格好良さを用いて、既存の世界観に新しい何かを挿入してきてくれる。

今作も「ジョーズ」という既存のサメ映画の世界に対して、序盤のサーフィンシーンのスタイリッシュ性がある。スーツやボードのセッティングからすぐ波に乗らせずにポイントまでの波を回避し進んでいくシーン、そこから解き放たれたように音楽とともに躍動すふサーフィンアクションが格好良い。海上ではビートを刻んだ音楽が、海中に沈むと水の破裂音とともに音が消え去る。「ゼログラビティ」を参考にしただけあり”音”に対する演出が人間の能力の及ぶ範囲に対して限定的であることを示唆している。最初のサメがアタックを仕掛けるシーンで海上と海中の両面に映るショットから攻めさせたのも納得がいく。

サメの攻撃までにあきらかな不穏な空気感と透かし、ある物を発見してからの畳み掛けは素晴らしかった。サメの全景も岩礁とブイと陸地の配置を見せる際の空撮カットがいかにもな大自然的な手の届かなさを表現している。それがサメから逃げる、闘うにおいてのゲーム性にもなっているように見える。

サメの強さを見せるのに、「ジョーズ」のようなスポット演出でなく、ある登場人物が業の報いのように犠牲になるところも面白い。

空間と時間は絞られているが、飛べないカモメとの時間の共有から自身の母への想いと自身の未来に対して大自然に挑む構図が儚く脆くとも死への抗いから見せる剥き出しの闘争心に身を委ねるクライマックスは視界不良の海中から襲ってくるサメのスリル性も相まって食い入るように没入することができた。

粗がないかと言われれば大手は振れないが、確実に絵に対してのセンスと色気を放つセラ監督作品の中のステップアップとしては見応えがある。

最後は照れ隠しのようなエピローグを用意しているが、「ゼログラビティ」のように終わらせ方でも良かったかなとも思う。

過去を”乗り越える”躍動と偶然にも岩礁に取り残されたカモメとの触れ合いが神話的で寓話的な、このご時世に気持ちの高揚するサメ映画だった。