むらさきの月

空と風と星の詩人 尹東柱(ユンドンジュ)の生涯のむらさきの月のレビュー・感想・評価

4.0
ユン・ドンジュの最後の言葉
スクリーンからは声が聞こえてこなかった
カン・ハヌル演じた彼が叫んだ最後の言葉は何だったんだろう

イ・ジュニク監督
『東柱(동주)- 空と風と星の詩人~尹東柱の生涯』を鑑賞

彼が 日本で獄死することなく母国に戻り
母国の言葉で詩を書き続け 
この後も多くの詩が生まれ 
残された詩を読むことが出来たのにと思うと
あの時の あの日本の姿が悔やまれると記録しておこう
韓国の詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ/創氏改名:平沼東柱)の生涯を、詩とモノクロ映像でつづる伝記ドラマ。朝鮮半島が日本の統治下にあった時代、治安維持法違反で逮捕された後、27歳の若さでこの世を去るまでの彼の青春を、独立運動に身を投じた宋夢奎(ソウ・ムンギュ/創氏改名:宋村夢奎)との交流を軸に描く。

自らの思いを世に問う術として
詩を選んだ 尹東柱
力を選んだ 宋夢奎 
対称的なそれぞれの生き方を
淡々と
時に詩的な美しさと 
時に童話的な優しさ
時に静かな怒りをもって 
尹東柱の詩と モノクロ―ムの映像で
悲しい時代を生きた 
二人の青年の友情と青春の姿を撮ったイ・ジュニク監督
モノクロームという映像が持つノスタルジック効果は
悲劇的な結末の物語にも関わらず 
劇場を出るときには 何故か
ほろ苦い青春映画を観たような印象を持たせるから面白い
ユン・ドンジュ役のカン・ハヌル氏
ソウ・モンギュ役のパク・チョンミン氏
両氏の演技は秀逸
特に、刑務所でのソウ・モンギュと特高の取り調べシーンは圧巻
日本の言葉を 生まれて初めて嫌悪した瞬間だった
彼の詩に最初に出会ったのは高校の頃の授業の時
初めて読んだ日本語訳の「序詩」冒頭2行の言葉は 強烈だった
飾りのない 真っ直ぐな言葉の中に埋もれている「恥辱(はじ)」という言葉に
作者の孤高なプライドに恐れを感じた記憶は
いつしか日々の膨大な情報らに記憶の片隅へと追いやられ
いつのまにか何処かに消えて無くなっていたが
再び この映像作品で出会う
久しぶりの「序詩」再読後の印象は変わらなかったが
以前にもまして 清冽な言葉の力に圧倒され 
折り返した時の流れの中を
この詩のように生きられたら…と思う
DVDが手に入るものなら いつかコレクションに

追記:
あのラストシーンには驚かされた
あのシーンを創造した表現者への尊敬と
日本人としての複雑な感情を覚えたことも 忘れてはイケナイ
むらさきの月

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