八木

ブレードランナー 2049の八木のレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
4.6
 前作は2回見ておりまして、劇場公開版(のDVD)とファイナル・カット版です。ものすごく素直な前作の感想としては、「結構自分で火点けてる感強いな」というものでした。エンタメ部分は、近未来について新たな切り口のビジュアルを見ているだけでほぼ満足してると思うし、これが80年代前半に出来上がっていたことを思えば、その後いろいろな作品に呪いのように影響を与えたということは納得するところです。また、ストーリーにも謎を残して考える楽しみもたっぷりある。ファイナル・カット版はさらにエサをばら撒いた感じがある。そもそもパキっとしたエンタメにせずどう進むかを緊張しながら眺めているうちに、120分後ちゃんとメッセージめいたものを考えて受け止められる情熱と計算には好感度があります。
 でも、レプリカントという存在をデッチ挙げたのはそちらの都合なわけですし、金髪の怖え奴がああいった感じでよい役割を得ていたとしても、心のどっかで「やりたいことはわかります」と冷静に受け止めているところがありました。まあ、こうなってくるとみる側の特性が問われる領域だと思った。
 で、この映画なんですけど、そういう「自分で火点けてる感」はもう多分、こういうジャンルで限界くらい消せていて、魂が腐っている僕としてもむやみに拳をぶん回すことはできないと思いました。つまりKさんに必要ないと言われた魂は僕の分差し上げたいですね。
 結構考えたんですけど、下手なこと本当書けないっすわ。もしかしたら、前作における「火点けてる感」というもの自体が今作における振りになっていたのではないかというくらい、外様も黙らせる丁寧な筆致なんですよね。今更、このタイミングで何を書くかという話ですけど、この映画『完全に』ブレードランナーの続編なんですよ。デッカードが最終的に選んだことととか、レプリカントという存在のでっち上げ感とか、考える隙間があったこととかについて、知りたかったあれこれを少しずつ埋めていく映画なんです。公開後35年経過して、結論を宙に浮かすことで結論としていた前作の足りなさ(魅力)が、その正体を無慈悲に明らかにしつつ「選ぶこと」にフォーカスして終わるのです。
 Kはレプリカントであり、ほとんど表情が出ないキャラなので、当然感情を出す瞬間は映画としてもエンタメとしてもポイントになってくるのですけど、僕は、泣いて悲しんでしまうような場面に無表情で佇むKの姿が胸に刺さって仕方がなかったです。映画見てください、としか言いようがないんですけど、人間の命令で気の進まない仕事をしていたKが、同胞によって希望を打ち砕かれて、その上で同胞から気の進まない命令をされるシーン、あの瞬間Kという人物はレプリカントであろうと人間だろうと「この世にたった一人」で「この先を自分一人で選ばなければならない」という、一人格が抱えるその人生の重さについて感じたと思います。本当に、心細くて、悲しかったのではないだろうかね。そして、「この世にたった一人の私」という事実のなんと美しくて、硬質なことかと。
 多分、前作が心の一本になっているような人にとっては、完璧な映画ではないかと思います。とても面白かったです。長いけど。
八木

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