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十年の小のレビュー・感想・評価

十年(2015年製作の映画)
4.0
2017年4月、『乱世備忘 僕らの雨傘運動』という映画を見て、民主主義的な価値観の“香港人”のアイデンティティーが中国政府に脅かされている香港の現状について、初めて考えた。

『十年』は、その香港の2015年から10年後の未来を、若手監督5人のショート・ストーリーで構成して描いた物語。特撮はなく、製作費はわずか50万香港ドル(約750万円)。

単館公開のこの映画は"香港人"の胸に突き刺さり、涙無くして見れないものだった。その評判が口コミで広がると上映館数は6館に増え、興行期間は香港映画としては異例の8週間に伸び、興行収入600万香港ドル(約9200万円)に達した。

中国政府は<映画館や映画祭での上映禁止はもちろんのこと、ネット上にアップロードされた違法動画にも、中国内からのアクセスは徹底的にシャットアウト>(公式ウェブのIntroduction)。ほとんどの国民が作品を見ていない中で、ネガティブ・キャンペーンを展開したという。

<もし、香港に何の思い入れもなければ「十年」は大した映画ではないかも知れません>(公式ウェブのReview)。見ればわかるシンプルでストレートなストーリーに面白さや味わい深さは乏しい。香港について多少の知識があったとしても"香港人"の気持ちを共有できなければ、失われゆくものを思い、涙することはできないだろう。

しかし世界は今、利己的な価値観が優位となりつつあり、民主主義は民主主義によって脅威にさらされている。自縄自縛の脅威は見えにくく、気がついた時には手遅れかもしれない。

大して面白くないが、見ておいた方が良い映画があるとすれば、民主主義的価値観が崩壊していく様を可視化してくれる本作は、そういう類いの映画なのかもしれない。

●物語(50%×4.5):2.25
・ストーリーはともかく、意義を買いたい。

●演技、演出(30%×3.5):1.05
・メッセージを、ストレートに、ど真ん中に。響く人には滅茶苦茶響くが…。

●映像、音、音楽(20%×3.0):0.60
・普通ということで。

●お好み加点:+0.10
・応援したいので。
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