Filmoja

ハクソー・リッジのFilmojaのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
3.5
1945年5月、戦争末期の沖縄。
ハクソーリッジ(前田高地)での激戦における、1人の衛生兵の活躍を描いた実話に基づく作品。

塚本晋也監督・主演によるレイテ島での惨状を描いた「野火」を思わせるような、真に迫った戦闘と戦況。極限状態の中、信念を貫き銃を持たず、兵士を救い続ける主人公の姿に目を奪われる。

勝利の為に玉砕を厭わない日本軍と、生還する為に撤退も辞さないアメリカ軍を対比して、浮き彫りになる民族性。
戦争における善悪の曖昧さ、無意味さ、無情に散っていく人間の愚かさと、非武装を貫き、命を救い続ける人間の気高さ、誇らしさ。そういったものが洪水のように流れ込み、こちらも正気ではいられない錯覚に陥るほどの、鑑賞後の胸の重みと疲労感。

それだけに主人公がなぜ、それほど自分の信念、すなわち“良心的兵役拒否者”にこだわるのか。少年期~青年期にかけての描写が弱く、説得力に欠けていて、終盤の熱量とのギャップが少し残念に思った。
聖書の教えや宗教的な部分は、一般の人にはやや理解しがたいかも知れない。

同時期に公開された「ダンケルク」とは対照的に、常にアメリカ軍と主人公の衛生兵の視点で進行するので、どうしても敵である日本兵を、命を省みない異質な存在として描かれるのが(実際にそうだったとしても)気になってしまう。
1本の戦争ドラマとして完成されているし、多くの兵士を救った彼の功績は素晴らしいのだけれど、ヒーローとして語られる姿に複雑な感情を抱いてしまうのも、自分が日本人だからなのかも知れない。
Filmoja

Filmoja