クレセント

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのクレセントのレビュー・感想・評価

3.9
私の声が物語を邪魔していると言われた件ですが。サリンジャーはバーネット教授に食い下がった。もちろんだとも。物語を独自なものにするのはその声だよ。だが作家の声が物語を圧倒してしまうと、作品は単なるエゴの表現になってしまう。それは読者の感情を置き去りにしてしまうからだよ。例えばこの文章を可能な限り単調に読んだのだが、皆釘付けになった。何故だと思う?それは語られる出来事が余りにも強烈で刺激的だったからだ。この文体は土俗的で有名なのだが、我々を引き込むのは自殺未遂や暴力などの出来事なのだよ。作者のフォークナーはそれを自分の声で語り、物語を唯一無二のものにした。大切なのはただ単調に朗読されたとしても引き付けられるからなのだ。このバーネット教授の言葉はサリンジャーにとって大きな収穫だった。それまで彼は声を大にして自分の伝えたいことを言うだけだった。しかし大事なのは読者の気持ちであることを教授は伝えたのだった。これはモノを書く人間にとって最も大切なことが何であるかを改めて感じさせる素晴らしい演出で、名優のK.スペイシーによってさらに説得力のあるシーンとなって我々をも魅了したのである。
クレセント

クレセント