円柱野郎

鋼の錬金術師の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

鋼の錬金術師(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

荒川弘の同名漫画の実写版。
母を生き返らせるために行った人体錬成の代価として体を失った弟アルフォンス。
兄エドワードは弟の体を取り戻すため国家錬金術師となり、鎧に魂のみが定着した姿となった弟とともに“賢者の石”を探す旅に出る。

原作は禁忌を犯した兄弟の"業"、彼らを見守る周囲の人、ホムンクルスの暗躍、人種や文化の対立などの話を全27巻で完璧にまとめられた長編作品。
錬金術の基本は理解・分解・再構築だが、この作品は原作を再構築できたのか…?

どだい2時間強ですべてを描くことはムリな話なので、何をどこまで描くのかという取捨選択が重要になるわけだけれども。
この作品が選んだのは「原作10巻までくらいの名場面をなるべく取り込む」形だったのかな。
そういう意味ではある程度まとまっている。
研究所の設定をイーストシティに移し、セントラルの状況をオミットして話をコンパクトにまとめようと工夫しているのも分かる。
ただ、結局のところ全体的に言えることは、色々詰め込もうとした結果…少々駆け足になったために積み重ねが薄くなってしまったかなあ、と。
それで色々な名場面を再現しても、見栄もケレンも不足してしまった様に感じる。
原作の魅力は、多くの敵や味方との出会いの積み重ねがちゃんと描かれているからこそのものだと思うので、そこは原作やアニメが物語を見せるのにかけた時間には絶対にかなわないわな。

原作前半をまとめる一方で、色気を出したのか原作の終盤から話を持ってきた部分もあるんだけども、特にエンヴィーとマスタング大佐の戦いはちょっと展開的には性急すぎた気がした。
エンヴィーが殺害したヒューズ中佐は、登場人物たちが“人の死を背負いそれを乗り越える”という作品のテーマにおいても重要な役割を持つキャラクターだけど、マスタング大佐がこの劇中のスピード感で真相を知ってしまうと、どうにも話が軽く感じてしまう気がして。
ここを描くならもっと時間をかけて「ようやく仇を討てる」という感じが欲しかった(極端なことを言えば続編ありきでも良いくらいだ)し、大佐が復讐という闇落ちに寸前で踏みとどまる話も残してほしかった。
(まあ…スカーを出さずに復讐の話に踏み込むと片手落ちになってしまうが。)

欧州的な文化や人種の物語を日本人が演じていることは、邦画でやる以上は色々な事情から仕方がないとは思う。
じゃあそこまでして実写化する意義があるのかという点においては、前述の通りで自分が原作を読んで魅力に感じた物語性は薄まってしまっている感じ。
それでもどこまで実写で再現できるかについて見ればCGによるアルフォンスの実存感はなかなか良かったし、松雪泰子が演じるホムンクルス・ラストの雰囲気もとても良い。
アルフォンスの声を演じている水石亜飛夢も上手かったなあ。
その一方で母親を錬成してアルが体を持って行かれるシーンは、床板に乗って風に飛ばされていく「ツイスター」?みたいな謎の演出で唖然としてしまった。
グラトニーも腹を開けるシーンがあるならバクッといくところがあっても良いんじゃ、というか腹を開けたまま兵士を追っていくシーンなんて安っぽすぎてちょっと…。
終盤のアクションシーンはほぼ大佐の火炎放射(!?)に頼っていたので、どうせ戦うならもうちょっとエドとアルの錬成を駆使した連携バトルも欲しかったよね。

などと思うところは山の様に出てくる作品でもあるが、タッカーの「…君のような勘のいいガキは嫌いだよ」と、エドが左腕でアルを殴り続けるシーンはあり。
円柱野郎

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