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ガザの美容室の小のレビュー・感想・評価

ガザの美容室(2015年製作の映画)
3.8
パレスチナ問題の本質は、イスラエルがパレスチナに対し非人道的な行為を繰り返していることにあると本で知り、本作もそうした内容かと思った。

しかし、美容室の外で繰り広げられているのはイスラエルとパレスチナの戦いではなく、ハマス政府とマフィアとの武力抗争、つまりパレスチナ内部の対立・混乱である。

タルザン&アラブ・ナサール監督はつぎのように語っている。<「戦争中であっても、彼女たちは常に人生を選択している。僕たちは“虐げられたパレスチナの女性”ではなく、人々の暮らしを、死ではなくて人生を描かなきゃならないんだ」>(公式ウェブ)。

どういうことか。ニューズウィーク日本版の次の記事が詳しい。
(https://www.newsweekjapan.jp/kawakami/2018/06/post-40_1.php)

<第2次インティファーダが無残な敗北に終わるまでは、イスラエルとの闘いはパレスチナ人にとって「ジハード(聖なる戦い)」であり、自身を犠牲にすることが義務であり、運命だった。死ぬかもしれない闘争に出ることは、家族にも告げずに秘密裏に行われ、家族はその結果を受け入れるしかなかった。>

ところが<「パレスチナ解放」という、かつては死をかけて闘われた政治的大義は形骸化し、崩れている。しかし、初めてパレスチナ人は「解放闘争」の呪縛から解放されて、生身の人間として立ち現れてきたともいえよう。>

<大義を唱えて戦う男たちの後ろで、家族を支え、耐えてきた女性たちが、「一体男たちは何をやっているんだ」と声を上げ始めている。女性たちの声という形をとって、パレスチナ人を問い直すことにつながる。>

パレスチナに関する世界の関心は民族や宗教問題であり、そこに生きる生身の人間については見向きもしないけれど、人は政治ための機械ではない。

<人間を犠牲にする「政治」を否定して、暮らしに回帰することで、現実に根差したパレスチナ人のアイデンティティーの再構築と、新たな政治の模索が始まるのだろう。>

美容室の外で銃声が鳴り響こうが悲鳴が聞こえようが、店主のクリスティンは仕事をやめる様子はない。小さな店にいっぱいの他の女性達も平静を装う。

それでも極限状態の中、ついに店内で争いが起こると1人の女性が言う。「私たちが争ったら、外の男たちと同じじゃない」。

ほぼ美容室の中だけで、ほぼ女性達の会話しかない展開は退屈だけれど、彼女達は人間を取り戻す戦いをしているのである。そう思って観直すと、また違って見えてくるかもしれない。

●物語(50%×4.0):2.00
・解説必要な内容かな。言われてみれば納得だけどパレスチナ関連の映画はそれでもやむなし。

●演技、演出(30%×3.5):1.05
・映画の中のパレスチナ女性ってみんな強そうに感じたけど、実際もそうなのかしら。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・戦争の緊迫感は良く伝わってきたかと。
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