あまのかぐや

アリー/ スター誕生のあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

アリー/ スター誕生(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

まわりの映画好きの声で「shallowが良すぎる」「街中でshallow聞こえてくるだけで自動的に涙が出る」なんて聞いたもんですから、ちょっと、いやかなり気になってた。映画を観ていないにもかかわらず、あのすでに聞きなれたサビが、どういう作用をもって、そうさせるのか。

…遅ればせながら上映が日に一回になってあわてて駆け込みました。

「スター誕生」自体は過去3回映画化されているそうですが、一作も観たことありませんでした、ラストも知りませんでした。


ーーー さえない私の前に超イケメンのロックスターが現れて、気づいたら夢見たステージにひっぱりあげてくれた、こんなのってありぃ?!?!

という、なんだか若い子が好きそうな、いまどきの邦画でもうけそうな設定。しかも命にかかわる「不治の病」ではないけど、歌手として致命的な「耳が聞こえなくなっていく」という障害…あー、もうなんかありがちー、主題歌タイアップ?ありがちー、邦画でリメイクもあるんじゃね?ジャックの役を山ピーあたりにして、なーんて、ね(スミマセンあらゆる方向に)

予告を観た時点で、期待値低めでいたから、公開されても後回しにしてたのが正直なところでした。

それにアル中薬中のブラッドリー・クーパーなんて、もう既視感ありすぎて。

これだけ「あるある」を詰め込んだ、しかも悲恋物語。

前半は、ご都合展開、ドリーム展開すぎて、ブラッドリー・クーパーがこーんなに近くに顔寄せて、あの声で「いっしょに歌おうよ」「ね」「一緒にステージに出ようよ」「たのむよ」なーんてくどいてきたら、どうですよ???(あとから思えば、あんなにいつも近づいてジッと顔を見てくるのは、単に酔ってるからだけでなく、すでに聴覚が…ってことだったのかな)

ジャックが見出して、一緒にステージで歌って、歌の才能を世に見せて、あれよあれよという間にデビュー、レディガガばりのきらきらソロステージ、さらにグラミー賞ノミネート…などなど。そのウシロで「あ、つきあっちゃうんだ、寝ちゃうんだ、え、結婚しちゃうんだ」と、けっこうそういうこと、ひとつひとつに驚いた。そんなのまわりに「スターと寝て掴んだチャンスじゃん」って足引っ張られなかったのかなって。

そんなショウビズの世界の妬みや嫉みなんか出る幕もないほど、アリーの前に立ちはだかる大きな壁になるのは、ジャック本人だとはね。

清らかな心を、だいぶまえに失くしたわたしでも泣かされたわ。アリーの真っ直ぐさと強さ、あと諸々の挿入歌の歌詞ね。これを対訳なしで受け止められる人はホントに幸せだなぁ、ってうらやましく思います。


――― あんたなぁ、これ以上アリーちゃん泣かせたらあかんで、あんなええコおらんて、な? ――― 


と、友近風なスナックのママになってジャックにお水のグラスを差し出したくなりました、3回ほど。

一番きつかったのは、アリーの留守中にきたマネージャーに「君はまたお酒に手を出す。つぎがあったらアリーとは別れろ」っていわれたあとね。

その次の場面で「ツアーはやめた、あなたのそばにいる」って言うアリーの言葉を聞きながら青い目で宙を観ているジャックの表情に「おいおいおい、まじかよ。そっちいくなよ、これ以上アリーちゃんを泣かすなよ、お願いだから」って私の中の友近が(涙)

結局、友近の声は届かず、アリーのために頑張ろう、お酒はやめよう、アリーの横に立って歌おうって強さもなく、一人で永遠にアリーの前から去ることを選んでしまったジャック。最悪じゃんか、その選択。

「死」そのものは見せず、ベルト、カウボーイハット、救急車、伏せて待つチャーリー、そしてドン底に落ち込むアリー…それらをみせ「察しろ」という優しさと残酷さ。

イケメンミュージシャンじゃなくなっても、最悪のアル中夫になろうとも、ジャックを愛していたアリーに背を向ける、しかもこれ以上ないぐらい酷い仕打ち。

ジャック、そこに愛はあったのかい?消えるのがあなたの愛なの?

とことん酷い男、救いようのないぐらいヒドイんだけど、それ以上に悲しい男、アリーの最大の理解者ジャックを振り幅いっぱいに演じたブラッドリー・クーパーの力量、アリーを演じたガガちゃんの力強さ(ルックス、声とも強い!)、これは俳優たちの化学反応とか、そういうものではなく、それぞれが持って生まれた天賦の才が物語にうまくはまり、すごーくありきたりな悲恋物語をこれ以上ない名作に力づくで引き上げたんじゃないかって気がする。映画館でこんなに泣くか、ってぐらい泣いたわ。

(あとね…ジャック追悼ライブでの歌”I’ll Never Love Again”は、じぶんが最近なくした大事なものを思い出したってのもあるんです)


で、冒頭の気になってた「shallow」の話に戻ります。
これは沁みますね。心に。そして飢餓感に襲われる。二人の「shallow」聞きたい、と。

ジャックが来るのを待っていたステージで、アリーが一人で歌う「shallow」がちらっと聞こえたけど「コレジャナイ」感、そしてエンドロールで「shallow」来るかと思ったけど、そんな「泣かせ」にかかる姑息な技は使わない。なにより最初にジャックが、素人娘アリーを舞台にあげて二人で歌った「shallow」あれが唯一無二だから、そう簡単には「shallow」は聞かせてくれない。アリーのパパたちによると動画再生回数がすごいことになってたみたいだけど、フルで観たいものです、ジャックが昔のように輝いてたというあのステージ。

タイトルは「アリー」だけど、ガガちゃんの存在感はすごいけど、でも二人は「対(つい)」だなぁ、と…。

ジャックとアリー。「スター・イズ・ボーン」と「スター・リボーン」と対になった二人が、クルクルと闇と光のなか、入れ替わる。二人一緒に輝くタイミングは、ほんとに数えられるばかりのわずか時間だった。…。

ブラッドリー・クーパー、監督したり、歌作ったり、それから、まるで元からミュージシャンのようなステージでのたたずまい。…改めてすげーな、と思いました。天は彼に幾つ才覚を与えてるんだ、あれだけの顔と声とスタイルをお持ちってだけでスゴイのに。
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