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バーガンディー公爵のhorahukiのレビュー・感想・評価

バーガンディー公爵(2014年製作の映画)
4.2
誕生日プレゼントはケーキの材料!

ドSなご主人様がドMなメイドに奴隷の如く仕事をさせる、ある意味win-winな心理スリラー。「私が終わりというまで仕事は終わらない!」等々超絶ブラックご主人様がメイドさんの度を超えたドMっぷりに逆に困り果てる。ちなみにこのご主人様とメイドさんは両方女性。つまり「百合」です!

両方女性どころか本作には女性しか出てこない。舞台は70年代ヨーロッパの小さな村。蝶や蛾の研究してるご主人様とメイドがお屋敷で一緒に暮らしてる。そして時折開かれる蝶や蛾の研究発表に村人全員(多分)が受講しにやって来るという、ちょっと私には理解できない環境。普通にキモイ…。

観客が当初思い描いていた2人の関係性を段階を追って違えていく。メモ書き、目線と表情の動き、湧き上がってくるものに蓋をするかのようなルーティンへの埋没。ルーティンといえばこの2人のやり取り自体がルーティンと化しており、同じことを何度も繰り返す。その度ごとに主体を入れ替え、日常動作の中に些細な感情的リアクションを仕込むことで、毎度毎度見え方がバージョンアップされる。

特にネタバレでもなんでもなく、この2人の支配-被支配の関係は実は真逆。情報を制限することで作中での実と観客の認識を序盤で大きく引き離し、物語が進むにつれて誤認を少しずつ解いていく。それもストレートにズレを正すわけではなく、アップデートするごとに寄り道的に別の誤認が仕込まれ、そのひとつひとつが「そういうことか」と納得させられるものでありながら、それを踏み台に更に奥地へと踏み入っていくのが面白い。

簡単に言うとメイドさんが「私を徹底的に罵倒して!」とか何かそんなことを毎回毎回ご主人様にお願いしてるんですわ。そんでご主人様は本当は優しく接して楽しくしたいんだけど、大好きなメイドちゃんに望まれちゃうから与えられた役を頑張って演じてる。でも「こんなことしたいんじゃないよ…😭」てな感じで仮面と自分の狭間で悩むって感じ。

相手から好まれる自分になるために仮面を被り自分を偽って生きてく姿は、彼女たちの病的に閉じた世界にとどまらず普遍性を帯びてくる。結婚生活においても日常生活においてもそれは何も変わらんよね?って話。

そして本作は仮面と本当の自分、虚像と実像の間に生まれるズレが次第に腐敗していき闇へと転換することへとフォーカスし始める。監督のストリックランドは前作バーバリアンなんちゃら(タイトル思い出せない🤣)でも音への絶大な信頼を打ち出していたけれど、それは本作でも同様。特に何も起こらずとも、闇を捉えた意味深な長回しと音によって関係性についてのドラマをホラーへと昇華している。私が『サタンタンゴ』の感想で今のホラーにはコレが足りないって書いてたことを既にストリックランド監督は実践していたわけですわ。当然、本作のホラーつまり闇は虚実が生み出す腐敗へと帰結する。

主観と客観を同一画面内に対比的に人物を含めて配置し、多層的な像を空間すらも混沌とさせ異界化と呼んでも良いほどの主観に対して客観の合いの手が入るのが面白く、正面からと背面を画面端に捉えての交互で場の主従と裏にある主観を表現したりと映像が見ていて楽しい。整序された気持ち悪さを蝶→人間へと転嫁させる中で没個性的に仕込まれたマネキンが個性的にしか写らないのとか笑っちゃうし、それがニアピンな蛾をもって整序を崩していくことを暗示し、特に何の説明的なものもなく闇を闇としてただ映し出す先にある彼女の涙は言葉にはできないけれど説得力があって凄いなって思った。

どうやら本作はジェスフランコへのオマージュらしいのだけど、私は見たことないのだけれど『Lorna the Exorcist』っていうのをやろうとしてたみたい。でも時々人物の顔の向きの構図とかフランコっぽいところがあった。本作でもフランコ映画常連のモニカスウィンがLornaって名前で出てるのも面白いね。『ファブリック』も期待大👍
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