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ちょっと今から仕事やめてくるの小のレビュー・感想・評価

2.9
「ちょっと今から仕事やめてくる」。一度は言ってみたいこの言葉。だから、仕事終わりに「ちょっと今から仕事やめてくる、みてくる」みたいな。

自分が何を期待するのかといえば、それはもちろん、会社をやめる時のスッキリ感。もはや現実にはかなわないと思っているから、せめて映画で疑似スッキリしたいわけですよ。

しかしビミョーだったかな。社会派ドラマ的なことでスッキリすることを妄想しながら観ていて、そういう展開はあるにはあるけれど、何だかスッキリしない。理由はブラック企業にリアリティを感じられないから。

大書された社訓を朝一に全員で唱和するシーンがあるけれど、遅刻したら罰金とか、有給とるなみたいな、そんなわかりやすく法を犯すことを堂々とやるような脇の甘い会社が、まともな会社と取り引きできるわけはなく、内部告発とかで、すぐ潰れますよ。

ブラック企業の部長さんはひどいことはひどいけど、追い詰め方が甘い。彼自身の立場に対する危機感が感じられない。だから隆の不幸が、ブラック企業だからというよりも、この部長さん一人がパワハラオヤジだったせいに見えてくる。

本当に怖いのは、単に罵倒されることではなく、ミスの原因を徹底的に追求されること。仕事に甘さを一切許されないという追い込まれ方は、相手が正論なだけに、逃げ場がない。

組織にはそういう非人間性があり、それはむしろ一流と呼ばれる企業の方が強そうだから、共感する人が多いはず。つまり組織のブラック性(=非人間性)はしっかりした企業ほど持っているというのが、サラリーマン生活20年超の実感。

隆が仕事をやめる際の部長さんの態度も謎。本当なら、あれだけ無能扱いしていたのだから、やめてせいせいでしょ。人をモノ同然に使い捨てるというのが自分の思うところのブラック企業。使えないと判断した人間がやめていくなんて、なんの問題もないハズ。それとも実は隆の成長に期待していたのかな?

あと、隆と女性先輩社員さんの別れのシーンも、個人的には違う感強めなのだけれど、そもそも隆は自分を責めても人は責めない“善人”設定だから、あれはあれで仕方ないのかな。

教訓があるとすれば、隆のような性格の人がこの映画に出てくるような会社に入ってしまったら、死ぬことよりも辞めることを選びましょうということなんだろう。良く考えれば当たり前だけれど、月150時間も残業をしているような状況になると、考えられなくなってしまうんだよね。だから、将来社会人になる人は良く心得ておきましょう、と。

しかし、実はこの映画、ブラック企業云々というのは二の次で、自殺寸前の隆を助けたヤマモトという謎の男の正体を探っていくエンターテインメントと、その正体が明らかになり、真相を知ったときの感動を味わうということが本筋なのだろうと。だからブラック企業の作り込みが甘くなってしまったのではないかと。

ホームに入ってくる電車に倒れ込む隆を助けたヤマモトは、ネットでググると3年前に亡くなったことになっている。それはまだ良いとしても、途中このヤマモトが何者であるかを誘導するチープな演出がファンタジー感を強めてしまう。

だから、だからわりと普通、とは言っても、ある種の現実逃避に見えてしまうラストを見て「何なのこの映画、はっきりしてくれよ」という気持ちになってしまう。全体としてみるとゴチャゴチャし過ぎでスッキリしないし、部分的、特にブラック企業の件はディテールが甘いからノレない。

ということで、いい年したオジサンが自身のストレス解消を目的に観たことが大間違いで、若い人がこういう生き方もアリかも、と思いながら観る映画じゃないかと。

●物語(50%×2.5):1.25
・つかみはオッケーなタイトル。しかし、方向感が定まらず。

●演技、演出(30%×2.5):0.75
・ちょっと芝居がかり気味。ヤマモトの謎な部分の演出はイマイチ感。黒木華さんは良かったかな。

●映像、音、音楽(20%×3.0):0.60
・ビルの屋上のシーンのハラハラ感良かった。苦手なんだよー、高いところ。

●お好み加点:+0.30
・ブラック企業をやめてきた後のシーンで映ったあの会社のビルに、ちょっと悪意を感じるけど、心の中で大爆笑。その周辺の風景は個人的お馴染みな場所だったので、「オレもスキップしてー」みたいな。この映画が記憶に残るとしたら、このシーン。
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