小

関ヶ原の小のレビュー・感想・評価

関ヶ原(2017年製作の映画)
3.0
高校生の頃、司馬遼太郎の『国盗り物語』を読み「美濃の蝮」こと斎藤道三の物語が面白くて歴史が好きになった。それで司馬遼太郎の本は結構読んだのだけれど、この映画はイマイチだったかな。

司馬遼太郎の本って、膨大な資料をもとに、主人公に好意的なストーリーを軸にして、周辺人物の物語やエピソード、司馬遼太郎のエッセイとも解説ともつかないような小話がふんだんに盛り込まれている。

面白さに加え、一般教養としての知識や処世訓が身につくような感じがするから、単なる歴史小説としてだけでなく、ビジネス本としてもオジサンたちの愛読書みたいになっているのだろうと思う。

この映画は本ならではのそうした特徴をできるだけ生かそうとしたのではないか、という気がする。しかし、それは時間の制約からか映像によってではなく、ナレーションによって。

本作の鑑賞体験でわかったことは、台詞ではなく、ナレーションによる言葉の多い映画は頭に入ってこず退屈ということ。脳の構造なのか、自分の頭だけの問題なのかはわからないけれど、映画を見る際って、映像と映像に関連する音声を処理しようと身構えているのに、文章を読む感じで処理しなければならないナレーションが多いと、処理が追い付かず混乱し、頭に入ってこなくなる気がする。

その結果、知識があったらもっと面白いかも、と思ってしまうかもしれないけれど、知識があっても面白くない、と思う。だって本を読むような言葉の多い映画を面白いと感じるのは、ドキュメンタリー映画とかでこの知識を覚えておきたいと思うときであって、石田三成の物語を見に来ている時ではないから。

自分がナニコレと印象的に覚えいているのが、徳川家康と本多正信(だったかな?)が、2人で会話をしているシーン。家康は智将の正信と会話することで戦略を固めているのだけれど、家康が決定を下す前だったか、後だったかに「正信は最後は家康に残している」みたいなナレーションが入る。これがいかにも司馬遼太郎の小説的(多分、小説に書いてあると思う)で「この映画は本かよ」とか思ってしまった。

つまり、上の者に対しては、自分の知識をすべてひけらかすのではなく、自分の思うような結論に誘導して、最後は上の者自身が考えたかのように気持ちよく決めてもらえば組織も自分の地位も安泰ということだろう。ああオジサンの処世訓、萎えるわー、ということで集中力のスイッチが切れる音が…。

石田三成についても、彼の大人げない面や他の武将を見下しているかのような面をにじませ、「三成ってイマイチな奴だなあ、だから失敗するんだよな。ようし、オレは頭を下げるべきときには下げ、同じような失敗はしないぞ」という、これまたオジサンの処世訓を感じさせ萎えー、と。

ということで、累計620万部超の原作尊重(=原作読者ターゲット)路線が、この映画のナニコレ感につながっているのではないかというのが、私の見立てなのだけれど、どうだろう。超高齢化社会だから、映画もオジサンを狙っていかないと、みたいな感じ。人気マンガ原作映画と思じような臭いが漂ってきますな。

本来意図したのは、正義をかたく守り、わが身の利害をかえりみず他人に尽くす"義”を信念として生きる石田三成の葛藤を描くことだったのだろうと思う。ならばお勉強にはならなくとも、原作を換骨奪胎した方が、タップリ時間があるわけではない映画には、良かったのではないかという気がする。

●物語(50%×2.5):1.25
・原作読書ターゲットだったのか、情報モリモリ原作を生かそうとしたのが敗因では、と。

●演技、演出(30%×3.5):1.05
・島左近、徳川家康が良かった。島左近の方が義の人っぽくないすか? 合戦のシーンでは「おお、赤揃え」と。

●映像、音、音楽(20%×3.5):0.70
・それなりに迫力はあったかと。
小