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ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺんのbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
研ぎ澄まされた、素朴さ。

公開当時Filmarksでも話題になっていた『ロング・ウェイ・ノース地球のてっぺん』、今回初鑑賞し、そのシンプルながら力強くハイクオリティなアニメーションに、大変驚かされました。
公式サイトあらすじを以下抜粋。

ーーー【あらすじ】ーーー
舞台は19世紀ロシア、サンクトペテルブルグ。
 14才の貴族の子女サーシャには悩みがあった。1年前に北極航路の探検に出たきり帰ってこない大好きな祖父。探索船は出たものの未だ行方が分からない。祖父と家族の名誉は失われ、祖父の名を冠する予定だった科学アカデミーの図書館も開館が危ぶまれている。ロシア高官の父は、そんな状況にあって、なんとかローマ大使の道を模索するが、そのためには社交界デビューの娘が皇帝の甥っ子に気に入られるしかないと考えている。
 社交界デビューの日、サーシャは祖父の部屋から航路のメモを見つけ、それが捜索船がたどったものとは異なる事に気付く。再び捜索船を出して欲しいとサーシャは舞踏会の場で王子に懇願するが受け入れられない。王子の不興を買い、父からの叱責を受けた娘は、自ら祖父の居場所を突き止めようと決意する。― サーシャが目指すものは、祖父との再会、それが叶わなくとも遭難した艦船ダバイ号の発見、そして何よりも真実を突き止める為の旅だった。
なんとか港までたどり着き、北方行きの商船ノルゲ号に乗せて貰おうと船長の弟に話しを持ち掛けるが、手違いもあり港に取り残される。食堂の女主人オルガの手助けにて、住み込みで調理や給仕といった未経験の仕事をしつつ船の戻りを待つ。その頑張りが認められようやく船に乗り込んだ後に待ち受ける多くの試練。船乗りの経験も無く、しかも女性であるサーシャには、想像を絶する困難が待ち受けていた。
 そして―
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本作を鑑賞し驚いたこと、それは、事物や人物の輪郭線を廃し、色の塗り(それも単色ベタ塗りを駆使した陰影表現)により構造を区切りそれぞれを形作る、要するに"主線無し"で描かれるアニメーションの出来栄えです。
油絵の絵画や写真のように鮮明なフル3DCGゲームのビジュアルの一部等ならいざ知らず、ここまでベタッとした塗りのアニメは珍しく、あまり見かけません。

主線を意識すると、自然と想起されるのが、アメコミ。
一般に「アメコミ風のタッチ」でイメージされるのは、実線が強く太くハッキリと引かれたイラスト。アメコミ風のデフォルメをするなら、大体そういう画風になりますよね。で、基本的にアニメも主線ありき。(大概はアメコミほど主張しませんが。)
儚げな雰囲気の作品ならば、線と線を離してとか、細く薄く見えづらくとかとあります。色を変えてる作品もありますね。
主線で個性・オリジナリティを出しているという形式です。
しかして、主線無しとなると、日本のアニメではあまり見かけない、個人的にはそんな印象。

そんな主線無しのシンプル極まる絵柄で描かれるのは、躍動的でパワフルな表現と、優しく温かみのあるキャラクターたち。
ロシアから北極方面へ向けての旅という、常時寒々しく身も凍りつかんばかりの風景が連続する物語なのに、手に汗握るような熱量あるアニメになっているのは、表情豊かなキャラクターたちの魅力を最大限に引き出している、本作のアニメーションあってこそ。
主線無しのインパクトや、ポップでアーティスティックな雰囲気にだまされて、色眼鏡で見ることなかれな傑作でした。


……実のとこ、帝政ロシアの晩年期が舞台なのに、登場人物皆フランス語だったのには、最初度肝抜かれました。
鑑賞後にフランス・デンマーク共作と知り、どうりでと納得しましたが。
細かな前知識無しで見て本当によかったです。
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