いの

ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択のいののレビュー・感想・評価

4.3
これが小説なら、その帯には「珠玉の短編小説集」とか何とか、記されるだろう。(でもアタシは、本当は「珠玉の」とかいうのは好きじゃない。もっと知恵を絞ろうよって思う。)


ひとりの静かな夜に読む、上質な小説のような映画。秋から冬にかけてが、きっといちばんしっくりくる。4人の女性の、それぞれのささやかな日常を、繊細に、注意深く切り取る。静かな台詞に、何気ない風景に、感情の揺らぎを、そっと浮かび上がらせる。巧みな演出。ローラの台詞には、男に生まれたら良かった、その方が断然仕事に有利、と思っていた新人の頃を思い出す。クリステン・スチュワートの美しさは言わずもがなだけど、ダイナーでの食べ方に、ここまでの生き方を垣間見せてた気がする。牧場で働く女性の気持ちもわかる。孤独や、距離感や、言いたいことを飲み込む気持ちや、ひとり流す涙や、あたたかさ。


家の窓越し、車の窓越しに、人物をとらえた映像が多い。人と触れあうときには、そこにガラスを1枚はさむ必要があるような、じかには人と触れあえないような。人の気持ちは直接にはわからず、ガラスに反射する光の屈折を通してしか見えないこともあるような。もしかしたら、そんな意図を込めた演出なのかもしれない。ミシェルをうつす時の車の窓は、特に曇っていて、ミシェルの心の曇り具合や、ミシェルの心の中を簡単にはのぞき込めない・のぞき込ませないことをあらわしているようだった。みんなさみしくて、やさしくて、懸命で、穏やかだけど、必死だ。


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(過去レビュー、再掲させていただきました)

ケリー・ライカート作品を並べたくて。
この作品は、テラスさんのレビューを機に観た作品。まだケリー・ライカートが誰なのかを全く知らなかった頃に。

いつか再鑑賞したいと思います。




【再鑑賞】 2024年1月上旬

4.1→4.3に変更します

『ファースト・カウ』鑑賞を機に、ケリー・ライカート監督作品を観られる限り再鑑賞した。初鑑賞のときよりももっと好きになっていた。始まりは、右手奥から左手前に向かっての列車の移動からだった。ケリー・ライカートの撮る風景はどれも本当に素晴らしい。わたしは難しいことなどなにひとつわからないけれど、どうしてカメラをそこに置いてそのように撮るのか。その全部に意味があるようにも感じた。じゃあどんな意味があるのかと問われたら、なんにも答えられないんだけど。それから、リリー・グラッドストーンが演じる女性の 細やかな感情の揺らぎに、観ているわたしも感情を揺さぶられた。


🐶 FOR LUCY 💧 🐶
いの

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